歯医者に行って糸を抜いた日

「子供の頃さ、こんな時代が来て欲しいなんて、よく思ったもんだよ」
 ヤーコプが唐突に話し始めたので、シャルルは最初、自分が語りかけられてるなんて思わなかった。
「は?」
「思わなかった?」
「思わないだろ、普通」
 シャルルがぶっきらぼうに答えると、ヤーコプは熱に浮かされた子供のように話を続けた。
「俺はあこがれてたね。英雄になりたい、強くなりたい、そう思ってた」
 言いながら彼は英雄の象徴であるはずの機械をバンバンと叩いた。
「なれたじゃないか。そいつの操縦に関して、お前の右に出るものは、うちには一人もいない」
 敵にだっていないさ、と言おうとしたがヤーコプがそれをさえぎった。
「乗ってみてわかった。こいつはただの人殺しの機械さ」
 そんなものは乗る前から誰もが知っていることである。
 シャルルは、今しがた整備を終えたばかりの機体を見上げた。巨大な人型の機械。
「で、こんな時代になってみての感想は?」
「ハッキリいって、うんこだね」
 それは同感だ、と彼は思った。