アンソロジー『放課後の方程式』
CHUNSOFTのPS2用ゲームソフト『3年B組金八先生〜伝説の教壇に立て!〜』のアンソロジィノベル。ただし、本には「金八先生」の名がありません。おそらく大人の事情。
ゲーム本編の世界観の補完をしつつ、単体の読み物としても成立させている、というこの手の小説のお手本みたいな本。完成度は高いです。
「エンコー少女」北島行徳
ゲーム本編では「たったひとつの冴えたやり方」や「キネマ狂想曲」でサブを務めたものの、あまり表に出てこなかった久住あいに焦点を当てた物語。視点は体育教師の関原。
時期は夏休み前だから「スタア誕生」「鉄っちゃんの恋」「連弾」などと同時期に起きていることになります。
テーマは援助交際っていうことになるのかな?
昔、援助交際って言葉を初めて聞いた時は、上手い言葉だなと思いました。これは「売春」じゃなくてあくまで「交際」なんだという言い逃れの上に出来上がった単語だったように思います。今じゃ「援交」って言葉自体に相当ネガティブな付加価値がついていますが。
関原の内面が描かれていて良かったです。久住はクールなヤツかと思っていましたが、意外に無茶をする娘だったんですねぇ。
「在りし日の思ひ出」長井知佳
これは「汚れつちまつた悲しみに」のプレストーリィです。時期的には「汚れつちまつた悲しみに」の一年ほど前の話、ということになります。
主人公は塩見慶一郎。ヒカルや銀平も出てきますが、完全に脇。
「汚れつちまつた悲しみに」は、りん子の教師としての立場の再確認的な話ですが、何故その話に「汚れつちまつた悲しみに」というタイトルがつけられたのか意味不明なところがあったのですが、塩見サイドから見ればなるほど「汚れつちまつた悲しみに」なんですね。
青臭さが良いです。
「マミレミクミ三人歩記」桑原裕子
ゲーム内のアクセントとしていたるところに出現しながらも、メインでピックアップされることはない(強いて言うなら「鉄ちゃんの恋」が一番前面に出ていたか)雨池マミ、白駒クミ、夏沢レミという生意気三人娘に焦点を当てた物語。
三人のそれぞれの日記というカタチが物語は進んでいき、中学卒業までの三日間から始まって、二年後、そして十年後まで描かれていきます。
『3年B組金八先生〜伝説の教壇に立て!〜』の最終章とも云える作品。これはいいですね。ゲームをプレイした人には是非読んでもらいたい気もします。
女性ならでは、的な視点というのもあるのでしょうが、性別に関わらず、中学を卒業して10年以上経った人があらためて中学時代を振り返るための有効なツールとなり得ると思います。
KAKUTAって観たことないな。今度、駅前とかでやるようなら観にいってみようかな?
そうそう、前に掲示板かどこかで、レミは三人組からピン立ちした方が良い、とか書いたのですが、実際、一人だけ違う進路に進み、孤立してしまいました。
ゲーム本編でもその辺の悩みが見えれば面白かったように思いますが、サクラ中の3学期は大荒れだったので、それどころではなかったかもしれません。
※)あと、もう一作品、掲載されているのですが、それは小説という体裁をとりつつも、「シナリオ」の域を出ていない──地の文がト書きのような──作品だったので、非常に読みづらく、読んでいる途中で挫折してしまいました。すみません。
アンソロジー『放課後の方程式』(CHUNSOFT NOVELS)
北島行徳/長井知佳/黒崎薫/桑原裕子
ISBN4-924978-43-4