四月物語

そういえば、四月が嫌いだった。 そんなことを思い出した。 四月という月が嫌いだったわけでも、春が嫌いだったわけでもない。 ただ、大学という場所における和やかながらも殺気だった四月の雰囲気が嫌いだったのだ。 春は別れの季節であり、そして出会いの季節でもある、と、僕たちはそう刷り込まれている。 だから、新しく仲間になる者たちも、それを暖かく迎える者たちも、希望という名の妄念に取り憑かれている。 そんな忘れていた瑕と黒さとを思い出させる作品と出会った。 岩井俊二の「四月物語」。 サウンドノベル『街』に水曜日役として出演していた留美が見たくて、公開当時からなんとなく「観たいな」と思いつつ放置してきた作品だ。 最近、市川染五郎づいているので、たまには分を摂取しようと思って借りてみたのだ(ちなみに染五郎をはじめとする、松本ファミリィは、松たか子の家族役として冒頭に出演している)。 そして、その黒さを思い出してしまった。 その黒さも葉桜とともに薄まっていき、五月になれば消えてなくなってしまう。 昔、大学生だった。 そんな、沈殿していた記憶が泥のように舞い上がって、そしてまた消えていった。 『四月物語』(1998) 監督・脚本:岩井俊二 ラインプロデューサ:佐谷秀美 ポストプロデューサ:掛須秀一 音楽:CLASSIC 出演:松たか子田辺誠一藤井かほり留美加藤和彦光石研松本幸四郎藤間紀子市川染五郎松本紀保塩見三省/梅田凡和/窪園純一/峰野勝成/津田寛治 作中作出演:江口洋介石井竜也伊武雅刀
円都通信