劇団☆新感線『吉原御免状』

昨年の『髑髏城の七人〜アオドクロ』は、言ってみれば今までの「いのうえ歌舞伎」の集大成的作品だったと聞いている。

それに三度のゲキ×シネ公開と、『阿修羅城の瞳』の映画化。普段、観劇をしない多くの人の目に触れたことだろう。これらが契機となって、新規ファンはかなり増えたに違いない。

それだけではない。

新感線のファンはリピータだけではないのだ。最近観なくなっている潜在ファンがゲキ×シネなどに触発されて「どれ、久々に観るか」などと思ったりもしただろう(かくいう僕もその一人だが)。

だから、正直、ファンクラブ会員でもない身でチケットが取れるか不安だった。

しかし、幸運は思わぬところから舞い降りるものだ。

知り合いの役者が『吉原御免状』の冒頭の群集シーンにエキストラで出演することになったのだ。を経由してチケットを購入することができたのは言うまでもない。

ただ、制作売りのチケットだからか、えらく後ろの方になってしまったけれど。

S列もS席なのね……。中央のブロックだから?

チケットはS席10,500円。

高いね。フリーの売れないライタにはかなりの贅沢だ。

でも、それを高いと思わせないのが、いのうえ歌舞伎。そう信じてチケットを購入した次第。

劇団☆新感線の生観劇は、『髑髏城の七人』(97年)、『SUSANOH〜魔性の剣』(98年)、『天保十二年のシェイクスピア』(02年)以来。

スキップしたくなる気持ちを抑えながら青山劇場へと向かった。

却説。

吉原御免状』は、いのうえ歌舞伎だが、中島かずきのオリジナルではない。

隆慶一郎の時代小説を原作としている。そう、『一夢庵風流記』(『花の慶次〜雲のかなたに〜』の原作)や『影武者徳川家康』の作者だ。

ただ、中島かずき隆慶一郎にインスパイアされている部分は多いらしく、そういう意味では、この作品の中にいのうえ歌舞伎の原点を見出すことも可能である。

特に本作品は遊廓を舞台としているので、『髑髏城の七人』の元ネタのひとつ、と考えてしまっても差し支えないだろう。

いのうえ歌舞伎というと、派手な衣裳に派手な音楽、歌と踊りとチャンバラと……というイメージを持っている人も多いかと思うが、今回はそういった意味では重厚かつ抑え目。

歌や踊りではなく、ストレートプレイとしてのいのうえ歌舞伎。コント的な要素もなく、言うなればアカドクロの進化系といっていい舞台だった。衣裳も竹田団吾ではなく小峰リリーだったし。

アオドクロ、SHIROHであれだけ派手にかました後だったからというのもあるのだろうが、この原作を活かすにはこっち方面の演出で良かったのだろう。

いのうえ歌舞伎重厚系、とでも言えばいいのかな?

原作は吉原を山の民たちの城砦として位置付けているようだった。江戸の中に作られた異界。

その異界である廓町をどう表現するか、というのが見どころのわけだが、これには面食らった。

廻り舞台を駆使して広がる奥行き。そこに遠慮なくエキストラを投入することで、街並みが、できあがっていく。

本当に街、って感じ。

とても艶やかだ、と思った。

遊廓が新吉原に移転した初日、肥後からやって来る宮本武蔵の弟子を自称する剣士・松永誠一郎。爽やかな印象のある堤真一が、この役をここまで純朴且つ艶やかに演じるきることができるとは思ってなかったので、意外だった。

カッコ良い。すなおにそう思えた。

その誠一郎が何故、吉原遊廓へ来たのか? 吉原とは何なのか? そのあたりを軸に物語は展開していく。

原作を未読だったために、この作品を単なる剣客モノだと思い込んでいたのだが、多分に伝奇的要素が含まれていた。

山と里との境界線をお歯黒溝に持ってきた、ということになる。凄いなぁ。

また、この作品は中島ワールドではなく、隆ワールドなので他の隆作品との繋がりも見てとれる。神君は狸穴二郎衛門ではなく世良田二郎三郎なのだ。

って意味がわかる人だけわかって頂戴。

とはいっても他の新感線芝居と関連付けても面白い。

今回、柳生の棟梁・柳生飛騨守宗冬を演じるのは橋本じゅん。宗冬は橋本じゅんにしては大人しい常識人の役であるが、『SHIROH』でその兄・柳生十兵衛三厳を同じく橋本じゅんが演じているので、そのギャップが楽しい。

全編にわたって流れるのは「女とは何ぞや」という問いかけだろうか?

人と関わらず山で育った誠一郎は、吉原で女を知る。勝山太夫高尾太夫に限らず、おしゃぶや八百比丘尼などといったさまざまな女と知り合い、情と業、そして憎しみまでをも知っていく。

そんな誠一郎を迎え討つは裏柳生の長、古田新太演じる列堂義仙こと柳生義仙。徹底的な悪役。

堤真一古田新太の対決は、この観劇に先だってビデオで『野獣郎見参』を観たのだが、それより数段素晴らしかった。

堤野獣郎はイマイチ突き抜けた感が感じられなかったが、堤誠一郎は内側から爆発するような気概を見てとれた。

まあ、役の心情が反映していたからだろうけど。

そんな訳で、最後の見返り柳(だと思う)での立ち回りは必見だ。

すべてが終わった後、誠一郎は吉原の胎内へ還っていく。

その後の彼らがどうなったのか、原作とその続編である『かくれさと苦界行』も読んでみたいと思う。

今回、残念なことにS席とはいえどもS列という後方での観劇となってしまったため、立ち回りや廻り舞台の素晴らしさ、全体の構成などは思う存分堪能できたものの、役者の表情などは全くわからなかった。

なので、松雪泰子京野ことみといった立ち回りを行なわない女優陣の魅力は半分も見ていないと思う。遠目だと、衣裳だけでは勝山なのか高尾なのかも判別つかなかったりすることもあったし。

もしゲキ×シネになるのなら、是非、このあたりに注目してみたい。

また、制作売りの席だったためだろうか、自分が座っている斜め後ろにいのうえひでのりが座って観ていた。

客席に芸能人が座っていても動じないのだが、これには激しく緊張してしまった。

いやはや……修行が足りませぬ。

SHINKANSEN☆PRODUCE INOUE-KABUKI

吉原御免状

原作:隆慶一郎

脚色:中島かずき

演出:いのうえひでのり

出演:堤真一松雪泰子古田新太梶原善京野ことみ橋本じゅん/高田聖子/粟根まこと/村木仁/逆木圭一郎/右近健一/河野まさと/インディ高橋/磯野慎吾/村木よし子/山本カナコ/中谷さとみ/保坂エマ/田畑亜弥/二木奈緒金子さやか/鶴水ルイ/熊本梨沙/武田みゆき/中間千草/仲里安也美/嶌村織里江/鈴木かすみ長谷川静香/吉田メタル/川原正嗣/前田悟/横山一敏/藤家剛/武田浩二/佐治康志/矢部敬三/三住敦洋/富永研司/吉田和宏/藤村俊二

(東京)香川正樹/金庭政男/黒柳直人/齋藤道大/坂井憲尚/清水敬一郎/鈴木雄二/田辺伸之/村上公浩/阿部早苗/緒方佐月/川西梢/柴田美雪/高橋沙織/棚橋明希

(大阪)大澤真也/コーディー/井上一馬/白馬王子/上杉龍/梅田裕介/ぎのお/中平裕/熊田洋司/野中朋子/安川愛/村上のりこ/井上美樹/南勇樹/神在ひろみ

東京公演:青山劇場

2005/9/8⇒10/5

大阪公演:梅田芸術劇場メインホール

2005/10/13⇒10/23

劇団☆新感線公式サイト

《参照》

あ、ごめん、本文では清水のこと触れてねーや。(練探日記)

今日の後半戦(PHOTHOSHIP)

芸術がバクハツしたかも(塒のこっちがわ)