仮面ライダーヒビキと7人の戦鬼

一言でいうなら、後世に作られた偽典『仮面ライダー響鬼』。 実はちょっと期待していた。 というのも、白倉伸一郎プロデューサが、読売新聞で以下のように述べていたからである。
“時代劇ライダー”製作の狙いについて、白倉プロデューサーは「最近、『あずみ』『阿修羅城の瞳』など、時代劇を一つの記号とした娯楽作が相次いでおり、今度のライダーもその流れにある。子供達は、『ロードオブ・ザ・リング』などのファンタジーの一つとして見てくれるのでは」と、予想している。
特撮娯楽時代劇。 この手のなんちゃって時代劇は大好きだし、しかも東映が作るのだ。 『阿修羅城の瞳』も引き合いに出している。あれの映画版の出来には多少文句もあるが、それでもここのところ演劇や映画に来ている時代劇ブームの波に便乗するという姿勢は好ましい。和風テイストを持つ『仮面ライダー響鬼』自体が時代劇との親和性も高そうだし、上手く乗れば、結構、話題になるんじゃないか? それに白倉プロデューサに脚本は井上敏樹。『PROJECT G4』から『パラダイス・ロスト』までのライダー映画で話題を独占してきた二人がお出まし(まあ、監督は違うけれども)ということで、本編とは違った娯楽作としての『響鬼』が観られるんじゃないか。 そんな風に思っていた。 まさか、本編のTVシリーズ方もお家事情でこの二人の登場になるとは思っていなかったので、今後のTVシリーズを占う作品というポジションになってしまったのは、この作品にとって不幸だったと言わざるを得ないが、まあ、それも承知の上でのことだと思うので、その辺も微妙に含めつつ感想を述べたい。 結論から言うなら期待はずれだった。 いろんな点において「どっちつかず」な印象が拭えなかったからだ。 まずは時代劇として。 これは時代劇である。時代劇というからには時代を考えなければいけない。 そんなこと言ったって台詞で普通に「ダイエット」とか「リバウンド」とか言っているし、衣裳も派手で舞台衣装っぽいし、時代考証なんてどうでもいいんじゃないの? ……なんて言われそうだが、そういうことではない。 別に「女性がお歯黒をしていない時代劇は変だ」とかいうことを言いたいわけではないのだ。 この作品、高らかに「戦国時代」と謳っている。 戦国時代なのか、ふーん、と思って見てみると、普段は歌舞伎役者の鬼、金のシャチホコをモチーフとした鬼、などが出てくる。どちらも江戸時代なら納得できる。敢えて「戦国時代」と言い切る意味がわからない。 戦で名をあげて大名になったという鬼の暮らしもなんだか天下泰平っぷりが滲み出ていて、江戸時代中後期だと言われれば納得できるが、やはり「戦国時代」とか言われてしまうと、頭にクエスチョンマークが浮かんでしまう。 歴史上の実在の人物の名前などは敢えて出そうとしていないようだったが、それならばなおさらである。「戦国時代」などという曖昧で、なおかつ実在の人物名がぽろっと出てしまいそうな時代はやめにして、いっそ江戸時代にしてしまった方が、架空の藩を作ってその領内で好き勝手にファンタジィができるというものを……。 ただ『響鬼』本来の持ち味として、『クウガ』同様、「地名をぼかさないこと」がドラマのディテール構築に一役買っているので、この辺りの逃げは、あまり相応しくないといえるんだけどね。 この作品は、「しっぺい太郎」や「八岐大蛇」に代表される、生贄を要求する妖からヒロインを守るという割とメジャな説話の類型にあたるものである。 魔化魍「オロチ」が、毎年、若い女を生贄に求めるので、オロチの姫と童子がとある村に娘を要求する。 ヒロインが生贄にされるのに納得がいかなかった少年は、魔化魍を退治することを生業とする「鬼」と呼ばれるはぐれ者を探す旅に出る。 そんな感じ。 普通にやっていれば良かったのかもしれないが、結局のところ、ただの怪獣退治映画になってしまっていて、しょんぼりだった。 オロチの住処を鬼岩城といい、そこに潜む姫と童子を中心にした一派を血狂魔党(!)という。 姫と童子の衣裳は、まさに「竹田団吾!」という感じのもので、血狂魔党の設定次第では、それこそ『髑髏城の七人』のように面白い時代活劇になったかも知れないが、特に存在意義のないものだったのが残念。名前だけかよ。 魔化魍忍群って言われてもねぇ……。 次に特撮ヒーローものとして。 この作品は『仮面ライダー響鬼』の劇場版であるが、TVシリーズとの整合性は全く考えられていない。 「鬼への変化を解除しても衣裳はそのまま」「猛士結成以前から各武器やディスクアニマルなどの各種アイテムが存在する」「割と音撃はどうでもいいっぽい」「『俺は魔化魍になった』などという言葉の使い方から、そもそも魔化魍という存在自体の定義が違う」など、最初から整合性をとるつもりは全くない、という姿勢がうかがえる。 映画は映画だ、映画独自の設定だ、本編とは関係ない、独立したひとつの映画としてお楽しみください、という姿勢で作っているというのはわからなくもない。 しかし、その割にはこの作品はやたらと本編とのつながりを強調する。 そこが問題。 冒頭は現代から始まるのだが、そこに登場する響鬼明日夢の関係を、映画公開時のTV版の二人の関係より敢えて一歩前進させており、そうすることで「これはTVのもうちょっと未来の話ですよ」という印象を植え付けている。 物語は明日夢少年が「たちばな」の地下で読んでいる古文書の記録として進むので、何かあるたびに話が現代に戻り、「戦国」と「現代」が並行して進む。 オチ的には、昔の記録をヒントに、現代の明日夢響鬼のオロチ退治を助けるという構成になっている。 そして、二段オチ的に、戦国時代、この事件をキッカケに「猛士」が結成された、ということを匂わせ、さらに「何故、組織の名前が『猛士』になったのか」という理由付けまでが明らかにされる。明らかになってしまう。 本編とは関係ない、という姿勢のくせに、本編の起源をここに描いている。 わけがわからない。 そんなエピソード、いらない。 いや、映画で示す「現代」もTVシリーズの「現代」とは微妙に違うんだから、あくまでそっちの起源であって、本編の起源じゃないんだから深く考えることはないんだよ、という意見もあるかとは思う。 だとすると、このエピソード自体に存在意義がない。 「本編との関わりを密接にして、その起源を示す」か「本編とは関係ないという姿勢をつらぬいて娯楽に徹する」か、どちらかでないと非常に座りが悪いのだ。 「猛士」の本部は「吉野」にあるらしいということや、「猛士」の戦闘担当者が「鬼」という異形になること、ディスクアニマルは現代の「式神」だと言っているところなども含めて、本編スタッフが、「猛士」のルーツを山岳信仰に求め、その由来はかなり古い(飛鳥か奈良、遅くとも平安?)んじゃないかなぁ……、などということを視聴者に「想像させる」ことに腐心してきたことは想像に難くない。 設定を台詞の端々にちりばめて、想像させ、しかしその詳しい部分は明示しない。 明示しないことに意味があるので、「猛士は戦国時代、鬼たちが安心して戦えるようにと村人たちが結成しました。猛士の名前の由来は──」などと言われてしまうのは、なんかアレだ、粋じゃない。 それに明かされて嬉しい内容でもないし……。 隆慶一郎を読んだ直後だからかもしれないが、シャンカとか道々の輩とかね、山という異界に住んでいた人たちがね、猛士を……ってもういいや、なんか萎えた。 ネタの宝庫を「無視する」のは自由だが、「わざわざ否定する」っていうのが、あまり建設的ではない。いらぬ節介。 まあ、ともあれ江戸時代のような戦国時代、傾奇者っぽい数名の鬼が、オロチを倒そうと集まり、一旦はあきらめたり、村人ともめたり、仲間割れしたりしつつも、最期にはなんとか……よくわからないけど、めでたしめでたし、って話なわけだ。 役者的に目立っていたのは、やっぱり歌舞鬼役の松尾敏伸。言ってみれば、アルマジロオルフェノク。 彼の悲劇として作品を上手くまとめられたら、面白かったかも知れないけど、薄っぺらな役にされてしまったのは、ちょっと残念。 ゲストとして出演していた安倍麻美は、なんかおざなりにされてて可哀想だった。実は黒幕だった、とかしてあげないと、まるで存在意義がない。 ゲストなのにおいしくないって、どういうことよ。せめて本体も女性であれば良かったのに……。 秋山奈々の出番がロクにないことに怒り心頭な人は、多分、いっぱいいるだろうから、明鏡止水の心で受け流します。でも、ちょっと残念。 では、森絵梨佳の扱いが良いかというと、そうでもない。折角の生贄役なのに。 小泉孝太郎は、パンフレットを見るまで小泉孝太郎と気付かなかった。いい役なんだけどね。 ドランクドラゴン塚地は、わかりやすかったけど。でも、彼も江戸時代っぽかった。 下條アトム蒲生麻由神戸みゆきの過去における役割がよくわからなかったのも残念。 結局のところ7人の戦鬼の紹介に時間がかかりすぎて、その他の部分はすべておざなりっぽくなってしまった気がする。役者もドラマも。 アクションの見せ場もそれぞれ作らなきゃいけないしね。 「7人」に拘るのはわかるけど、拘りすぎ。数人の鬼を含め、「合計7人」という路線ではダメだったのだろうか? アクションも時代劇風でもなく、響鬼風でもなく、平成ライダー流かと言うとそうでもなく、むしろ戦隊風だった。 いろんな意味で「どっちつかず」が出ちゃった映画なのね……。 『仮面ライダーヒビキと7人の戦鬼』(2005) 監督:坂本太郎 脚本:井上敏樹 音楽:佐橋俊彦 特殊衣裳デザイン・造型:竹田団吾 出演:細田茂樹/栩原楽人松尾敏伸渋江譲二松田賢二山中聡北原雅樹湯江健幸/川口真五/蒲生麻由神戸みゆき森絵梨佳秋山奈々/水木薫/梅宮万沙子/村田充芦名星安倍麻美塚地武雅小泉孝太郎下條アトム プロデューサ:白倉伸一郎/土田真通/梶淳 原作:石ノ森章太郎
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