仮面ライダー THE FIRST
実を言えばこういう作品が企画されるのをずっと待っていた。
とかく日本は、昔の作品や先人たちをリスペクトする方向にある。それは良いことなのだが、勢い余って、そこを頑なに侵すまいとする聖域化傾向が強すぎるように思っていたのだ。
「本郷猛」と「藤岡弘、」とを繋ぐあまりに強い絆、あるいは枷。
──その存在ゆえに、本郷猛を主人公とする『仮面ライダー』を、新たに作るという、たったそれだけのことができないでいたように思う。
その結果、仮面ライダーはシリーズとして地層のように積み重なり、仮面ライダーを名乗る者が、主演ライダーだけでも18人、サブも含めるともはや何人いるのかわからない、という大所帯になってしまった(それが悪いとは言わないが)。
そんな中、登場した二代目本郷猛──黄川田将也。
彼の登場により、本郷猛はジェームズ・ボンドや浅見光彦の側にようやく立てたことになる。
『仮面ライダー』が一歩前進した、と考えて差し支えないだろう。
肝心の内容であるが、観終わった時に、
──仮面ライダーとは何であって、何でないのか。
それを深く考えさせられてしまった……。
2000年に始まった『仮面ライダークウガ』に端を発する平成ライダーと呼ばれる一連のシリーズにおいて、昭和ライダーからオミットされてしまった要素に「悪の秘密結社」というものがある。
もちろん宇宙刑事シリーズや戦隊シリーズなどにも敵の組織が存在する。それらは、宇宙から来たり、異次元から来たり、地底から来たり……どこかファンタジックなものを思わせる設定が多い。
あるいは平成ライダーでも、『仮面ライダークウガ』なら殺人ゲームを生業とするグロンギ族は徒党と呼べるようなものを組んでいたし、『仮面ライダー555』のオルフェノクという怪人たちもスマートブレインというコングロマリットを拠り所としていた。
しかし、どれも世界征服を企む悪の秘密結社、というものとは微妙に違う気がするのだ。
冷戦が当たり前のように世の中のバックボーンとして存在し、娯楽が未熟であった高度成長期ならではの発想だといえなくもないが、『仮面ライダー』は、この「悪の秘密結社」というファクタと切っても切り離せないような気がするのだ。
その秘密結社の代表格が、他ならぬ『仮面ライダー』に登場する「ショッカー」である。
人間を改造し洗脳するという人権無視の行為を平然と行い、その上で拉致、殺人、破壊などの行為を繰り返し、日本を裏から操ろうとする。
そう、70年代の特撮に登場する悪の秘密結社とは、相当に政治色の濃い団体なのだ。
そのショッカーがどうアレンジされるか、そのあたりに注目している人も多いはずだ。
何しろ、この路線でつきつめていくと、特定の宗教団体やテロリスト集団を観客に想起させてしまいかねないのだから。
ショッカーとライダーと公安警察の三つ巴、というのも観てみたい気がするが、そこにヒロイズムが介在できるかというと、微妙な気がする。
で、肝心の映画での描かれ方だが──
残念なことに、ショッカーはきちんと登場するものの、実際にどんなことを行なっている集団なのか、皆目見当もつかなかった。
一応、作中では冒頭でこそ要人暗殺や企業への潜入スパイのようなことをやっているようだが、以後は「抜け忍狩り」と「目撃者の始末」しかしていない。
ショッカーが何であるかは、すでに「わかっているもの」として話が進んでしまっているのが、正直、哀しかった。
そりゃ創り手たちの間では、ショッカーは共通言語なのかもしれないけどさ……。
そんなわけで、降りかかる火の粉を払う本郷は見られるが、ショッカーの活動を阻止する本郷、という図式がない。
ショッカーの改造人間【コードネーム:ホッパー】は、まだ【仮面ライダー】になっていないのだ。
さらに、この映画の主軸となるのは、本郷猛と小嶺麗奈演じる緑川あすかとのロマンスだ。
本郷が彼女を好いている、という部分と、あすかが本郷を目の敵にしながらも気になる、という部分はまだ納得できる。
しかし、彼らの間に高野八誠演じる一文字隼人が絡んで三角関係になるのは唐突すぎるし、彼女がショッカーに攫われる理由もイマイチしっくり来ない。
物語がしっかり転がるだけのパワーをヒロインが持ち合わせていないのだ。もちろん、小嶺麗奈自身は頑張っていたのだとは思うが、脚本レベルでの飛躍が気になった。
ヒーローものということで気になるアクションだが、『Sh15uya』を連想させるスピーディで切れ味の良いワイヤアクションが見ものだ。
バイクアクションと合わせて、アクションシーンのためにこの映画を観る価値は十分にあると言っていい。
出渕裕によるライダーや怪人たちの洗練されたデザイン──着ぐるみから衣裳への昇華、というべきだろうか──も相まって、ノスタルジィ、新しさ、迫力の三点を兼ね揃えていたように思う。必見。
ウエンツ瑛二と小林涼子のロマンスについては、ああやって挿入することでミスリードを狙っていたのかも知れないが、もうちょっと見せ方があるように思えた。
せっかく、ショッカーの幹部にISSAと佐田真由美という若い男女がいることだしね。
……しかし、スネークのあの唇は反則だ。
俳優としては、スパイダーことタクシー運転手を演じた板尾創路がキモ怖くて良かった。
こういうのを怪演というのか……と妙に納得。
冒頭の「レッツゴー!! ライダーキック」の挿入と、天本英世のデジタル出演は個人的には蛇足に見えたかな?
まあ、それで喜ぶオールドファンも多そうだし、ファンサービスも必要か(そういえば、サム・ライミの『スパイダーマン』でもエンディングで旧テレビシリーズの主題歌が流れたっけ……)。
見るべきものが多いにも関わらず、描写の省略と飛躍によって観終わった後に「なんだかなぁ」と思わせる勿体無い作品だった、というのが正直な感想だ。
そんなわけで、タイトルの「THE FIRST」は「原点回帰」とかそういう意味合いではなく「EPISODE 1」的なものだと解釈させてもらった。
ショッカーと仮面ライダーの戦いは、これから始まるのだ。ショッカーの描写が殆どなかったのはそのせいなのだ、と勝手に納得。
これで続編がなかったら、怒るかしょぼくれるかの、どちらかだろう……。
『仮面ライダー THE FIRST』(2005)
監督:長石多可男
脚本:井上敏樹
プロデューサ:加藤和夫/矢田晃一/白倉伸一郎/武部直美
音楽:安川午朗
主題歌:DA PUMP「Bright! our Future」
キャラクターリファインデザイン:出渕裕
出演:黄川田将也/高野八誠/小嶺麗奈/ウエンツ瑛士/小林涼子/津田寛治/板尾創路/宮内洋/風間トオル/並樹史朗/北見敏之/仲程仁美/石橋蓮司/本田博太郎/前田浩/マーク武蔵/大橋明/荒川真/吉田瑞穂/砂押裕美/佐田真由美/辺土名一茶/丸山詠二/天本英世
原作:石ノ森章太郎
⇒仮面ライダー THE FIRST 公式サイト
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