コクリコ坂から
この夏は、観たい映画がやけに多い気がする。
インプットは常に続けていないといろいろ枯渇しちゃうので、観たい映画はなるべく観ているわけだが、この夏は、さすがに全部観られる気がしない。映画代もバカにならないし。
そんな中でも助かるのが毎月1日の映画サービスデーと、水曜のレディースデー。映画は夫婦で観に行くことが多いので、レディースデーも結構重要だったりするわけだ。
昨日はレディースデーということで、宮崎吾朗監督の二作品目『コクリコ坂から』を観てきた。
吾朗監督は、前作では『ゲド戦記』なのか『シュナの旅』なのか判別できないヤツを作らされちゃった感のある巻き込まれ型の監督って印象があるので、いろんな意味で心配してる方も多いだろうけど、さて、いかがなものか……。
ちなみに映画『ゲド戦記』に関しては、酷評する方も多かったが、個人的には無難な映画という感想だった。
「父王殺しの皇子の流離譚」とするなら僕の中で『アリオン』を越えないな、と当時思ったってことを覚えている。
少女まんがが原作で、宮崎駿が企画と脚本を担当している、という意味では、今作は『耳をすませば』と似たようなシフト。
『耳をすませば』と違うのは、吾朗監督自らが絵コンテを担当しているらしいという点。
で、肝心の映画だけれども──
面白かった。
原作未読のため、特に先入観もなく観させてもらったのだが、素直に楽しめた。
淡い恋の表現にもしっかりときめいたし、キャラの立て方も好きだ。
映像的にも、女ばかりで、描写も人物もリアリティあるコクリコ荘と、男しかいなくて、総じてコメディ寄りのカルチェラタンの対比が素敵だったし、その両者を接合するドラマ部分もわざわざノスタルジックな誤魔化しを施さなくても、普通に良かったと思う。
総じて良い映画だったな、と思う。
ただ、原作は(未読だが)おそらく「こんな話」ではなかったと思われる。
時代設定も違うって話だし、印象はかなり違ったものだろう。
つまり、「やりたいこと」が先にあって、翻案を前提に原作が「選ばれた」、という部分では『耳をすませば』と何ら変わりはないってことだ。
それはいい。
映画『耳をすませば』は、僕もDVDを買うくらい好きだから(あれを原作者がどう思っているかは知らないけど、後に『猫の恩返し』が作られたところからみて、原作者との関係は良好のようだ。信じられないことに)。
そこに賛否はあるだろうけど、「原作を利用してやりたいことをやる」というのが、一種のジブリ流なのだろう。
ただ、解せない部分がひとつだけある。
鑑賞後、いつものようにパンフを購入して、家に帰って読んだのだが、その中に、「企画のための覚書「コクリコ坂から」について〜「港の見える丘」〜」という昨年の1月に宮崎駿によって書かれた文章が掲載されていた。これを読んで、吃驚してしまった。
要は、「原作はここがダメだから映像化の際にこうしたい」という覚書なのだ。
外に向けて書かれたものではない。明らかに内部資料だ。
だから、クリエイタ宮崎駿による原作への忌憚なき批評が書かれている。氏の原作に対する思い入れは知らないが、これだけ読むと、本人の思惑にかかわらず、原作へのリスペクトがまるで無い(映画化の経緯を見るにそんなことはないはずなんだけど)ようにも読めてしまう。
スタッフに読ませるべきもので、客に読ませるものではない。
『耳をすませば』のパンフレットには、同じように宮崎駿による「なぜ、いま少女マンガか?」という文章が載っているが、これは「どういうつもりで作ったか」という文章であって、どちらかといえば客に向けて書かれたものだ(と思う)。
その差は大きい。
誰が、どういう意図をもって、こんな内部資料(と思われるもの)をパンフレットに載せちゃったのか。
それだけが非常に気になる。
どういう意図のパフォーマンスなのかが。
そこだけが、強く気になった。
……と思ってたら、同じ文章が、まんま公式サイトにも載っていた。
つまり、パンフだけじゃなくて、宣材目的としても使われているのだ。
これが宣材になる、とプロモーション側が判断した、ということになる。
これって、制作現場と売る側との完全な乖離じゃないんだろうか?
それとも掲載を是認する何かがあったのだろうか? 原作者はどう思ったのだろうか?
疑問は尽きない。
あ、前述の通り、映画自体は面白かった。
劇場に観に行こうか迷ってる人は、心配せず、観に行って良いと思う。
この文章における数々の原作に対する指摘も多分、妥当なものなのだろう。
が、
いやはや、
なんというか。……ねえ?
怖い怖い。
『コクリコ坂から』
脚本:宮崎駿/丹羽圭子
音楽:武部聡志
出演:長澤まさみ/岡田准一/竹下景子/石田ゆり子/柊瑠美/風吹ジュン/内藤剛志/風間俊介/大森南朋/香川照之/伊藤綾子/白石晴香/小林翼/渡邊葵/村上喜彦/菅谷大介/藤田大介/枡太一 ほか
制作:スタジオジブリ
監督:宮崎吾朗