あの花とポケモン

先日、ちょっと思うところがあって、「あの花」──『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のノベライズ版を購入してみました。

わざわざ書く必要もないとは思いますが、「あの花」は、2011年の4月から6月の間に放映されたTVアニメーション番組で、「小学生の頃は仲良しグループだったが、仲間のうちの一人の女の子が水難事故で亡くなってしまって以降、何となく疎遠になってしまい現在にいたる」という高校生の男女の物語です。話の内容は全く違うのですが、序盤の雰囲気からなんとなく『白中探険部』というPS2のゲームを思い出したりもしました。

作中の舞台である秩父の描写が割と細かくて、うちの劇団の主宰である後輩(秩父出身)からの強い勧めもあって、久々にガッツリ観た作品でした。

その作品の中で、時間の経過を示す重要なアイテムのひとつに「のけモン」というゲームが存在します。

「のけモン」とは、『のけぞりモンスター』の略で、まあ特に解説する必要もなくポケモン、即ち『ポケットモンスター』のもじりであるわけですが、ノベライズ版では特にもじったりせずポケモンとして扱われているとのことだったので、小説版を読んでみたくなったわけです。

事前に人伝で聞いていたので、確認作業になってしまいましたが、確認することで、あえてオリジナルのアニメ版の秀逸さが見えた気がしたので、ちょっと簡単に記事してみた次第。

まず、アニメの冒頭で主人公の宿海仁太がプレイしているFPSゲームに出てくる女性器をイメージしたようなクチビルお化け(クチビルゲというよりはヒャクメルゲに近い)に対し、本間芽衣子が「ビルビルダー?」と聞くシーンがあります。

芽衣子の言うビルビルダーというのは、「のけモン」に登場するモンスターの名前らしいのですが、これが小説だとひとがたポケモンルージュラ」だということになっています。

ルージュラはその名前の通り、口紅をひいた唇を強調した姿なので、まあ、わからないでもありません。

アニメ版では、芽衣子が欲していたらしきレアのけモン「なかよしきんぐ」をゲットするために「ポイット」の進化系「ポイザーン」と「ガンガルガ」を通信交換する──などというシーンがあるわけですが、小説版では芽衣子が欲していたのは、伝説のポケモンであるじかんポケモンディアルガ」だということになっています。

──ディアルガ

そう、彼らが小学生時代にプレイしていたのは、第四世代の『ポケットモンスターダイヤモンド・パール』だったのです。

「あの花」の物語が放映年と同じ2011年の物語だとするなら、すでに前年である2010年に第五世代の『ポケットモンスターブラック・ホワイト』が発売されてますし、小学生時代である5年前には「ダイヤモンド・パール」が出ていて何の不思議もないのです。まさにリアルです。

が、それなりの年齢に達している僕は、ここに激しく違和感を覚えてしまいました。

そうです、高校生にとっての5年前は大昔でも、すでに大人であるユーザ(読者・視聴者)にとって、ニンテンドーDSという比較的新しい機種で発売されたダイヤモンド・パールは「最近の作品」でしかないのです。

「あの花」視聴者が作品に感じていた魅力のひとつに「ノスタルジィ」というものがあると思います。

視聴者は、高校生である主人公たちに同化しながらも、自分の小学生時代と照らし合わせて作品を見ます。

しかし、当然のことながら視聴者側には年齢にバラつきがありますので、そこをどうすり合わせるかが作品のポイントだったのだと思うのです。その点、アニメ版の描写は秀逸でした。

仁太は、同じ超平和バスターズの仲間だった安城鳴子のバイトする中古ショップに「のけモン」を買いに行きます。

店員である鳴子は訊きます。

「のけモンのどれですか? オパール? エメラルド?」

実際にポケモンには第三世代に「エメラルド」というバージョンがあるのですが、ここはおそらく「パール? ダイヤモンド?」をもじった台詞なのでしょう。

脚本家の方が、「エメラルド」というセリフを実在するバージョンを意識して書いたのかどうかはわかりません(小説版の作中の描写を鑑みるに、実際のポケモンの仕様を知らないかのような表現もあるので)が、そこに第三世代と第四世代が同居するという思わぬ効果が生まれています。

次に、仁太がリクエストする「のけモン」のバージョンは「金」で、それを聞いた鳴子が呆れるというシーンにつながり、その後の仁太と鳴子とのやりとりから「のけモン金」が5年前に出た作品だということがわかります。

ポケモンで「金・銀」といえば、ご存知の通り第二世代のゲームボーイカラーの時代の作品で、2011年から12年前にあたる1999年に発売されました。

1999年から5年後の2004年が舞台とは思えない描写があるので、のけモンの金はポケモンの金とは合致していないわけですが、ここであえて「金」というセリフ(レジでの表示は「ノケモンGOLD」)を持ってくるところが上手いわけです。

その後、仁太と久川鉄道の二人が鳴子の自宅まで押しかけ、皆でのけモンをプレイすることになるわけですが、そのシーンに鳴子の私物である「のけぞりモンスター」のパッケージが登場します。

そのパッケージは明らかにゲームボーイアドバンス(作中では「GAMESTYLE ADVENT」と表記)版の紙箱で、実際に彼らはゲームボーイアドバンスSPと思しきゲーム機でゲームをプレイし、アドバンス用の通信ケーブルを使って通信交換します。

そうです、のけモン金はGBA版でありポケモンに照合すると「ルビー・サファイア」に相当する第三世代の作品だということになります。

「ルビー・サファイア」は2002年の発売であり、その5年後となると2007年の物語ということになってしまいますが、アニメ版では取材時期の影響か、2011年に解体されたはずのキンカ堂秩父店(作中では「金力堂」)の描写があるので、2011年の物語ではない可能性もあるわけです。

つまり、彼らが小学生時代にプレイしていたゲームは、

・第四世代の「ダイヤモンド」であり、

オパールより前のバージョンであるところの第三世代のGBA版でもあり、

・エメラルドの前のバージョンであるところの第二世代の「金」でもある。

……というわけなのです。

ポケモンは3〜4年のペースで新バージョンが発売されるので、幅広い視聴者層の「小学校の時にやってた」感をフォローするという意味では、適度な情報の散らし方だと実感しました。

僕はといえば、第一世代である「ポケモン赤」にハマったのが1999年1月で、その時点ですでに大人だったので、ポケモンに関するノスタルジィは特にないのですが、8歳年下の細君の同級生だった男友達の6歳年下の嫁さんは、ポケモンは小学校の頃にプレイしたことがあって、「ポケモン言えるかな?」の歌をよく歌ってたと言ってました。僕にとってはポケモンは比較的新しく現在進行形でもあるコンテンツですが、あまりゲームをしない彼女にとっては子供の頃の懐かしいモノなわけです。

また、昨年の夏、甥と姪が「アニメは見てるがゲームのポケモンはしたことがない」という状態だったので、「まずは第三世代からやれ」とばかりに甥に「エメラルド」、姪に「リーフグリーン」をプレゼントしたのですが(クリスマスに第四世代の「プラチナ」と「ソウルシルバー」をプレゼントしました。春には進級祝いとして第五世代の「ブラック2・ホワイト2」をプレゼントする予定)、よくよく考えてみれば小5の甥は2001年生まれ、小3の姪は2003年生まれ。

第三世代のポケモンなんて「生まれた頃に発売されたレゲー」でしかないわけですよね。

いやはや、ポケモンに関するジェネレーションギャップというのはかなりありそうです。

そういう意味でもアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』でののけモン描写は秀逸だったな、と思うわけです。

夏には劇場版もあるそうで。

子育てと仕事に忙殺されている昨今、劇場まで映画を観に行くことができるかどうかは現段階ではまだわかりませんが、楽しみにしたいと思います。

あ、もちろん3DSの『ポケットモンスターX・Y』も楽しみですよ。