仮面ライダー大戦
「乾さんは何のために戦っているんですか? 戦うことで誰かを救うことができると思いますか?」
正直な話をすれば、『スーパーヒーロー大戦』以降の春映画はそんなに好きじゃない。
『レッツゴー仮面ライダー』もそんなにノれなかったが、その後、『199ヒーロー大決戦』⇒『将軍と21のコアメダル』⇒『MOVIE大戦MEGAMAX』⇒『ゴーカイジャーVSギャバン』と満足な映画が続き、徐々に高まっていった気分を清々しいまでに叩き落としてくれたのが『スーパーヒーロー大戦』だったからだ。
「せめてここまでは守って欲しいな」と思ってる最低限の整合性も取ってくれてないし、かといって面白さのために整合性を捨てたのかといえば、そういうわけでもないっぽい。映画館を出た時の焦燥感は、今考えても苦笑してしまうほどだ(個人の感想です)。
そんなわけで、以後、恒例化されてしまった春のごた混ぜ映画は、自分の中で、特撮ファンとしては観ておきたいけれどどうにもこうにも気が進まない、そんなポジションの映画になってしまった。
だから、今年の『仮面ライダー大戦』(正確には『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』)鑑賞に対するモチベーションも、あまり上がらなかった。
話題作りのためとはいえ、事前に昭和ライダーと平成ライダーを対決させるという部分ばかりをピックアップしていたことや、予告編での本郷猛らしからぬ物言いも、観に行きたいという気分を萎えさせるに十分なものだったと言っていい。
この映画を観に行く気になったのは、半田健人氏が10年ぶりにファイズas乾巧として出演するということ。その一言に尽きる。
あとは現行作品である鎧武とその出演者の皆さんを応援しているということと……あ、ディケイドには最後までつきあう、という自分自身への誓い(?)もあったけど。
ちなみに、投票に関しては、観に行くのだから参加しておくべきだろう、ということで一応、平成側に投票させてもらっていた。4歳の時点ではレオもストロンガーも終わっていたため、ライダーやウルトラマン以外の戦士が自分の中のヒーローだったこともあり、昭和ライダーには(スカイライダー以外)あまり思い入れがないんだな、と再認識した次第。
そんなわけで、少し前に映画館まで観に行ってきたわけだが、とりあえず事前の宣伝とはちょっと違う、ということはわかった。
1号ライダーはともかく藤岡弘、さんの本郷猛としての出番はそんなにないし、昭和ライダーと平成ライダーの対決も投票結果による決着も作中でそれほど意味をなさない。
簡単に言えば、この映画は、仮面ライダーファイズこと乾巧の再起の物語であった。
この物語に登場するファイズは、確かに半田氏が演じるあの乾巧に他ならない。
しかし、戦う罪を背負うことを覚悟し、仲間たちの夢を守り、最終回で自分の掌の中に夢を掴んだ乾巧──僕らの愛したあの「たっくん」ではない。
かと言って、「ファイズの世界」に登場する尾上タクミでもない。
オルフェノクやスマートブレインとの戦いに於いて、覚悟も夢も定まらぬまま、戦う意味も見出せず惰性で最終局面まで臨んでしまい、勝ちはしたものの仲間の死の呪縛から逃れられないでいる、という別の可能性の末に生まれた「別の巧」だった。巧(ロスト)と表記してもいいかも知れない。
仲間の死を背負って生き続けるというのは、本来、海堂直也の役どころであると思うのだが、その辺りも内包したのが今回の巧ということなのだろう。
西洋洗濯舗・菊池の前で門矢士の誘いを断る際、巧は「世界中の洗濯物を真っ白にしなきゃいけない」的なことを言う。
最初、この言葉を聞いた時は感動した。本編後の巧が言ったのであれば、心からの台詞に違いないからだ。しかし、すぐにそうではなかったとわかる。
その後、海辺の街で邂逅した町医者・神敬介との交流の中で、巧の抱えている悩みが浮き彫りになっていく。件の言葉は、現実を受け入れ切れていない巧の逃避の口上にすぎなかったということだ。
巧と神敬介とのふれあいは意外に面白く、まるでそういう昭和ライクな東映映画を見に来てしまったかのような気分になる。だから、以後、そういう目線で最後まで観ることで、モチベーションを保つことができた、と言ってもいいかもしれない。
何故、昭和ライダーと平成ライダーが戦わなければならなかったのか、いや、そもそも作中で昭和と平成というカテゴリに分かれる意義は何だったのか、地下帝国バダンの狙いとは、最終的な決着はどうだったのか。真面目に観てしまえば納得できないところも多いのかも知れないが、もう作品の興味が「この巧」がどうやって立ち直り、仮面ライダーファイズとして再起できるのか、の部分だけにシフトしてしまったので、評価は甘くなってしまったように思う。
スケジュールを合せるのが大変だと思う中、今まで以上に多くのレジェンドたちが出演してくれていることは素直に凄いと思うし、正直、嬉しいことではあった。
出番が少ないながらも、晴人が戦国MOVIE大合戦での経験を巧に伝えてくれたのも、クロスオーバならではって感じだったし。
昨今のウルトラ映画では歴代の主人公がよく登場するので、シリーズと役者とが支え合って進んできている感を感じてはいたんだけれど、ライダー映画にはあまりそういうのが無かったんで、余計にね。
平成二期以降、MOVIE大戦のお陰もあってようやくライダー同士の縦の繋がりが見え始めたところへ、今回の大量出演なので、今後もレジェンドたちの「意味のある出番」を期待したい。
不満も多いが、それでも大ショッカー、スーパーショッカー、歴史改変ショッカー、スペースショッカーという妙なショッカー祭りに食傷気味だった昨今、バダン帝国を引っ張り出してくれたこと自体は嬉しい。村雨本人が登場したのなら、親友であるはずのタイガーロイドにももっと注目して欲しかったが、タイガーロイドの近くに本郷の友人であるさそり男が意味ありげに立っていたので、多くは望まない。
仮面ライダーフィフティーンの板尾さんに関しては、THE FIRSTにおけるスパイダーの怪演の印象が強かったのでライダー役はどうよ、と思っていたけど、子供の死というテーマ的にはピッタリだったのかも知れない。彼がどんな気持ちでこの役を演じたのか、それを考えると映画の内容よりも、そちらの方で胸が押しつぶされそうになる。
動機としては大道マリアやワイズマンとあまり変わらないので、ありふれた感があるが、子供が生まれて以来、そちら方面の設定には、出来不出来を問わず弱くなってるのは否めない。
トッキュウジャーの客演に関しては、それぞれのシリーズの先輩・後輩がからむMOVIE大戦や戦隊のVSシリーズに対して、昨今の春映画が、現行のライダーと戦隊とが絡む場所ということになってるっぽかったので、特には言及しない。
ただ、トッキュウジャーと電王(レインボーラインとデンライナー)のファーストコンタクトという美味しそうなカードを、こんなところであっさり切ってしまったのは勿体ない気がした。
仮面ライダーJは、今回もお邪魔キャラ的に巨大な姿で出現するものの、重要なシーンではやっぱり巨大化してくれない。『オールライダー対大ショッカー』の際に巨大ディケイドの素体になったのが唯一の活躍だったか。誰か、仮面ライダーJの巨大化設定を上手に話に絡めた作品を見せてくれないものか……。
雑感を書き連ねてしまったが、まあ、今回は不満点も多いけど『スーパーヒーロー大戦』のような焦燥感は無く、楽しめたというのが自分の中の落着点かも知れない。ファイズ愛みたいなものも感じられたしね。
米村さんが脚本を担当した時のライダー映画は楽しめないことが多い(個人的統計)けど、ディエンド映画の時と同様、柴崎監督が映像にしてくれるとその辺が緩和されるので、脚本家と監督の「食い合わせ」みたいなものもあるんじゃないかと思われる。
ライダーVS戦隊、それに宇宙刑事も参戦、平成と昭和の戦い、と来て、今後、春の大戦映画はどこへ行ってしまうんだろう?
どうせだったら、東映・テレ朝の刑事ドラマ等とタイアップして、警察に関係するライダーや主要人物が総登場する警察映画とか作ってくれたら、それはそれで楽しいかもしれない。というか観たい。観せてくださいw
「……十年後、答えてやるよ。俺がもし生きてたらな」