ネイティブ企画『ザ・ウインズ・オブ・ゴッド』

エルカンパニーの『THE WINDS OF GOD─零のかなたに─』のアレンジ上演。

こういうありものの芝居を上演されると、元の脚本に対する感想になるのか、その劇団の公演の感想になるのかいまいち微妙です。

『THE WINDS OF GOD』自体、噂は割と聞くものの、今回が初の観劇になります。

あらすじはといえば──

漫才コンビのアニキとキンタの2人が交通事故を契機に、1945年8月にタイムスリップしてしまう。

しかも、そこでは2人は特攻隊員として扱われる。どうやら、墜落事故を起こした2人の特攻隊員の身体に彼らの魂が乗り移ってしまったようなのだ。

終戦が近づく中、彼らと同じ隊の特攻任務は刻一刻と迫ってきていた。

あらすじだけ書くと、かなりおいしいネタの宝庫のような設定です。

が、『THE WINDS OF GOD』は、その設定を使いこなせていません。脚本としてはかなり拙い部類に入ると思います。

まず、主人公の漫才コンビ2人が、全然、現代人を代表していないので、感情移入できないというところが大きいです。

彼らの設定や行動原理、台詞などが、全てにおいて平成の人間というよりは、高度成長期の人間のように見えてしまうのです。

だから、彼らの目を通して見る特攻隊員、という図式が成立しないのが痛い。

広島の次に原爆の落ちた場所が思い出せない、終戦の日付や経緯を知らない。そんな現代人がいないというわけじゃないとは思うんですけど、この2人のどちらかが、そのくらいは知っててくれないと話が進まないんですよね。

「あと一日待てば戦争は終わる」って自覚があれば、もっと盛り上がったと思うんですけどねぇ。

しかも、妙に脚本から滲み出る懐古主義的な平和忌避。

戦中の人間である特攻隊員たちが特攻任務に誇りを持ち、国のため、家族のために戦うと断言するのはかまわないのですが、キンタたちがそれに感化されていってしまい、普段、考えなしで生きている自分を恥じるというのが、非常に気持ち悪かったです。

反戦モノというよりは、むしろ戦争賛歌ですね、これでは。自覚はないとは思いますが。「反戦モノが書きたくて特攻隊員という題材を選んだつもりが、書いてるうちになんか戦争賛美になっちゃった」みたいな拙さがあるわけです。

特攻隊を扱う以上、これから命を散らさなければならない特攻隊員たちにスポットがあたるのは当然なのですが、現代人なら特攻される艦にも連合軍の兵が大勢乗っているということに気づきそうなものですが……そういう描写は微塵もないんですよね。

あと、気になったのは神父が輪廻を語る、ということですかね。異端か? カタリ派か?

さて、ネイティブ企画の公演なんですけど、いろいろとアレンジがあったようです。

特攻していく隊員の回想シーンを追加してそれぞれの心情を掘り下げたり、結末を微妙に変えてしまったり。

結末を変えてしまったことで大きな矛盾が発生してしまい、追加したパートすらいろいろと台無しになってしまった感は残りますが、もとの脚本がイマイチですので、気にはなりませんでした。

が、追加シーンを加えたことにより上演時間が2時間半になってしまっており、それは勘弁して欲しかったですね。2時間半もやるような内容ではないでしょう、これは。

出演者の方は上手い方が多かったように思います。特に寺川役の方は素敵でした。

ネイティブ企画第三回公演

『ザ・ウインズ・オブ・ゴッド』

原作:今井雅之

演出:津田英三

出演:岸部哲郎/清水敬一郎/中田和宏小林大介/足達洋介/手塚謹弥/平辻朝子/山縣よう子/大橋あをい/永沼久美子

劇場:TACCS1179

2004/10/6⇒10/10