翼が生えたこんなにも悩ましい僕らも

他ではどうだか知らないが、都内ワンルームの住宅事情として、隣に住む人のことを殆ど知らないというのがある。
全く知らないというわけではない。すれ違ったりすることもあるので、どういう人が住んでいるか、くらいは漠然と知っている。
交流がないのだ。

出掛けにすれ違えば「こんにちは」とか「こんばんは」くらいは言う。
でも、緊張するので、なるべくなら顔をあわせたくない、という気持ちもなきにしもあらず。
っていうか、何故か顔をあわせないんだよね。意図的にお互いを遮断している感じ、といえばいいのかな?
ワンルームという名の自分のプライベート空間を互いに崩さないように、というベクトルが明らかに発生している。馴れ合わないためのベクトル。
商店街で床屋の奥さん(若い)とすれ違うのとはわけが違うのだ。
うちの賃貸だけか?

僕の部屋は階段を昇ってふた部屋目。階段側の隣室には若い女の人が住んでいる。
夕方、ちょっと出かけようとすると、ちょうどその人が帰ってくるところだった。
こっちが鍵をかけている間に、さっさと鍵を開けて部屋に入ってくれ、とか心の隅で思ったが、どうやらこちらの方が早かったようだ。

日も落ちていたので「こんばんは」って言うタイミングを見計らう。緊張……というか緊迫。
「こ……」と言いかけた瞬間、

♪デドー

という間抜けな音。
うん、メール着信音だ。「かまいたちの夜」のズッコケSEである。
やなタイミング。しかも「こんばんは」ってハモっちゃってるし。

何となく敗北した気分で階段を降り、電話機を取り出してメールをチェックすると、ウミノからのメールだった。
ウミノに全く非はないのだが、「ウミノめ……」と呟いた。

そんな冬空。