覘き小平次

レビュー、書いたつもりになって忘れてた。一ヶ月前の読書……。

ハードカバーで出た小説が新書化されるのが約二年後、文庫化されるのがさらにその二年後、という気の長い話が、出版の世界では当たり前のようである。

そんな世界に於いて、新書化を待ち望んでいたのが本作品『覘き小平次』だ。

京極夏彦の時代物は、『嗤う伊右衛門』、『巷説百物語』、『続巷説百物語』と新書で読み、さすがに新書化を待ちきれなかった『後巷説百物語』だけはハードカバーで読んだのだが、時期的に微妙だったので『覘き小平次』だけは待っていた、というわけだ。

この作品は、形式的にも内容的にも作中時系列的にも、映画化もされた『嗤う伊右衛門』の正統的続編ということになる。

嗤う伊右衛門』に登場した小股潜りの又市を主軸においた『巷説百物語』シリーズも続編といえなくもないのだが、あれは活劇。位置付けがちょいと違う。

嗤う伊右衛門』が四谷怪談京極夏彦風純愛悲恋にアレンジしたものなら、この作品は「小平次もの」と呼ばれる怪談を再構築したもの。

浅学ゆえに「小平次もの」を知らなかったのだが、まあ、小学館国語大辞典にも、

こばた-こへいじ【小幡小平次

(「こはだこへいじ」とも)妻の情夫に殺された旅役者小幡小平次の怪談を扱った歌舞伎脚本の総称。「彩入御伽草」「怪談木幡小平次」「小幡怪異雨古沼」など。

と載ってるくらいだから、四谷怪談ほどでないにしても、割と有名なのかもしれない。

まあ、細かいことは各自調べて欲しい。

基本的な構成は、『嗤う伊右衛門』と同じで、各章のタイトルになっている人物の視点から起こった事象を語りつつ、その人物の内面を浮き彫りにしていく。

残念だったのは、起こった事象が怪異の噂となって拡散していく一方で、当事者たちは収束し一種血なまぐさいカタストロフィとなる、という基本構成が『嗤う伊右衛門』を完全に踏襲してしまっているということ。

その一点を除けば、非常に楽しめる作品だ。

前述した通り、各章で登場人物たちの内面ををこれでもか、これでもか、というくらいにエグっていくので、読んでいる方としてはグイグイ引き込まれていく。

ハタから見た彼らと、彼らの内面との対比が面白く、おぞましくも愛おしい。

結局のところこの作品の肝は、小平次とお塚の歪んだ愛情(関係)という一点に尽きるのだが、まあ、何と云うか特殊の集合が一般なんだな、と得心した次第。

『覘き小平次』中央公論新社

京極夏彦

ISBN4-12-500889-2