『電車男』第一巻読み比べ

読んでから、かな〜り経ってしまいましたが……(苦笑)。 正直、「電車男」というWEB上の出来事にはそんなに興味がなかったのですが、コンテンツのメディアミックス(死語だと思っていたのに、今じゃ普通にそこにあるものです)的な展開には興味がある僕です。 最近は、まず映画を上映してその後、ドラマを放映(それに付随するようにまんがや舞台などを展開)するケースが増えてきていますよね。最近だと『世界の中心で、愛をさけぶ』とか『いま、会いにゆきます』など……。 まず映画をやっておいて、別キャストで連続ドラマ化するっていう、ここ最近の流行を作り出したのは、最初は何だったんでしょうかね? 『サトラレ』かな? ともあれ、「電車男」もその多分に漏れず、いろんなメディアで展開しているわけですが、ことまんが版にいたっては、他のコンテンツとは一線を画していて、「競作」という手法で展開させていました。しかも五誌で。 ベースが同じ話を別の作家の手でまんが化する、これってちょっとドキドキしませんか? 舞台でいうなら、同じ脚本を再演したり、他の演出家さんが演出するような、そんな感じ。 そういえば、『サムライスピリッツ』のまんが版もいろんなところから単行本が発売されて、ドキドキしながら集めた記憶があります。 いくつか展開しているうち、Judy版『電車男 SPRING IS COMING』(画:橋本ライカ小学館)だけは「スレ住人」という立場から見た別のお話なので、ここでは置いておきますが、すでに単行本が発売されている作品(の第一巻)のみ、ちょっと見てみましょう。 電車男〜ネット発、各駅停車のラブ・ストーリー〜小学館 原秀則による、ヤングサンデー版です。読むと分かるんですけど、原秀則がこういう題材をまんがにすると、ごく普通の「原秀則まんが」になっちゃいますね。ヤング誌の恋愛もの、って感じ。 主人公の電車男君の位置付け的にも、『冬物語』の「予備校生」っていう立ち位置と近い気がしますし。ただ、普通の原秀則まんがは、「ダメなときはダメ」っていうスタンスで斬られてしまうこともあるのですが、『電車男』には元ネタがあるだけに、ハッピーエンドが約束されているので、安心して読むことができます。 ちなみに第一巻は、電車男エルメスの友人と会うところまで、です。スレッド住人たちは個性はあるとは思うものの、割とリアルな人格付けで、皆、脇役に徹しています。 電車男 頑張れ毒男!秋田書店 やけにダイナミックな演出のヤングチャンピオン版。作者は、道家大輔。数名のスレッド住人が濃い目にキャラクタ付けされていて、そこのやり取りが特徴的です。 電車男=オタクという図式的が一番表現されていそうなまんが。ユニクロに怖気づく主人公が笑えます。 第一巻は最初のデートで一緒に食事をしているところまで。 電車男〜でも、俺旅立つよ。〜秋田書店 同じ秋田書店のこちらはチャンピオンRED版。個人的に好きなのはこれ。ヤングチャンピオン版がオタクを描くまんがなら、チャンピオンRED版はオタクが読むまんが風。作者は、渡辺航。 主人公もヒロインも、「少年」と「少女」という表現がしっくり来るような感じです。「主人公=純なヤツ」っていう部分が一番出てるかな? スレッドの住人とのやり取りが、ヤングチャンピオン版とは別の意味で特徴的で、決して手抜きではないと思うのですが、手抜き風味なのが良いです。 第一巻は、最初のデートの待ち合わせでエルメスが現れるところ、まで。 電車男〜美女を純情ヲタク青年のネット発ラブストーリー〜講談社 作者は、御茶まちこ。掲載誌はデザート(ただし、読み切り)。一言でいえば、「少女まんが」です。隅から隅までずずずぃっと少女まんが。主人公の電車君もどちらかというと、少女の理想のような男の子に見えます。 基本的には元ネタに忠実ですが、主人公とヒロインに本名を設定してます。エルメスの友人がエルメスには彼氏がいると告げるシーンがあり、それが効果的に使われるのかと思いきや、あっさりスルーされてしまったのが、不可解。 このデザート版の一番の特徴は、一巻完結だというところ。一冊だけでさっくり読める、というところがオススメなのであります。 ……と、これでひととおりかな? 物語の「語りなおし」という作業には惹かれます。 末端ながら関わらせていただいた『舞-HiME』も、TVアニメーション版、まんが版、小説版、ゲーム版で、似て非なる物語が並行して存在してますしね。 そういえば、古事記日本書紀だって、ある意味、同じ話の語りなおしですものね。三国志三国志演義(さらに言うなら吉川英治の小説版「三国志」)もそうか。 語り部を変えて物語を再構成するということには、きっと感じる意味以上の意味があるのだと信じたいですね。