三野博司訳『星の王子さま』

サン=テグジュペリ作『星の王子さま』はすでに内藤濯の訳本(岩波書店)を持っている。 今年の6月より新訳本が続々と登場した、ということは知っていたが、バタバタしていたせいで、ノーチェックだった。 ふと本屋で目にした途端、購入してしまったのは、やはり内藤濯の訳文が気に入ってなかったからなのだろう。 購入したのは三野博司の訳による論創社版。 論創社といえば、『髑髏城の七人 アカドクロ/アオドクロ』など中島かずきの戯曲集などを出しているところだ。 さて、肝心の訳文だが、これは非常に読みやすかった。 内藤濯のものは読みづらく、そのために読むたびに違った意味を想起させるようなものだった(それがいいという人もいるらしいが)が、そういうものよりは好感が持てた。 もちろん含みがないわけではない。 例えば第二章の冒頭を少しだけ抜粋させてもらうと、内藤訳は、
 ぼくは、そんなわけで、六年まえ、飛行機がサハラ砂漠でパンクするまで、親身になって話をするあいてが、まるきり見つからずに、ひとりきりで暮らしてきました。パンクというのは、飛行機のモーターが、どこか故障をおこしたのです。
となっているが、三野訳は、
 こんなふうに、六年前、サハラ砂漠に不時着するまでは、ほんとうに心を許して話し合える友人もなく、僕は孤独に生きてきた。僕のエンジンの中で、何かが壊れてしまったのだ。
である。 前者は厭世的で、人を避けているかのようなニュアンスだが、後者から読み取れるのは、大勢の中にいつつも絶えず孤独を感じている主人公像であり、多分に現代的だ。後述のエンジンの件も意味深に思える。 発売から二ヶ月。 すでに、直訳的な三野訳、というイメージがついているようだが、とある不時着者の手記という意味では、雰囲気が出ているような気がした。 他にも小島俊明訳が中央公論新社から、倉橋由美子訳が宝島社より発売されており、以降もしばらくは新訳ラッシュが続くようだ。読み比べるのもいいかも知れない。 訳本を選ぶ権利が読者にある、というのは、好ましいことだ、と思う。 RONSO fantasy collection 1『星の王子さま』論創社) 作:サン=テグジュペリ 訳:三野博司 ISBN4-8460-0443-0
追記:「箱根★サン=テグジュペリ 星の王子さまミュージアム」については、 星の王子さまミュージアム のエントリィを参照のこと。 《参照》 みんなで訳そう! インターネット版「新訳・星の王子さま」 8/26追記: 件の場所、Richard Howardによる英訳版『The Little Prince』を見てみたら、
SO I LIVED all alone, without anyone I could really talk to, until I had to make a crash landing in the Sahara Desert six years ago. Something in my plane's engine had bloken,
となっていました。 原文であるフランス語は読めないのでなんともいえないのですが、三野氏のあとがきを考慮に入れるなら「plane's」は、多分、英訳者による補足だと思います。