『Le Petit Prince』と邦題〜その2
「『Le Petit Prince』と邦題〜その1」で長ったらしい前置きを書いた上で、その2で何を書くのかというと──
「星の王子さま」でダメなら、じゃあ、どんな邦題がいいのさ?
……みたいな考察をちょこっとだけ。
『Le Petit Prince』の英題は「The Little Prince」。直訳するなら「小さい(可愛い)王子」っていうところか?
実際、中国語訳では「小王子」となっているみたいだし、そういえば『A Little Princess』の邦題は「小公女」だった(ちなみに『小公子』の原題は「Little Lord Fauntleroy」)。
日本でもすでに山崎庸一郎訳の『小さな王子さま』という訳本が販売されている。
「星の」というニュアンスによるミスディレクションを避けるための措置、なのだろう。
悪くないタイトルだが、それでも疑問は残る。
問題なのは、「Petit」が「Little」、つまり「小さい」というのは良いとして、「Prince」は「王子」で良いのだろうか、ということだ。
日本語の「王子」という言葉には、王の息子(あるいは王位継承者)というニュアンスがまんま字面から見てとれる。
しかし、作中に登場するPrinceは、別に誰かの子供というわけでもないし、誰かの王位を継承するわけでもない。
Princeの星に「王」は存在しないのだ。
いるとすれば、星巡りの旅で最初に出会う「王様」くらいか。彼との因果関係は特にないだろう。
単に主人公である飛行士が彼のことを「王子さま」と呼んだだけなのかも知れないが、第20章で彼自らが「それだけでは、ぼくはりっぱな王子さまにはなれやしない……」(三野訳)と言って泣くシーンがある(ちなみに内藤訳では、ここは「ぼくはこれじゃ、えらい王さまなんかになれようがない……」と意訳の方向に一歩進めてしまっていて、逃げています。そりゃ王子さまだもん、王さまになるんだよね……しょんぼり)。
するとやはり「Prince」は「王子」というニュアンスより「君主」「諸侯」といった感じが強くなるだろう。
小さな君主
ちょっと固いかな?
それに、Princeの訳語に「君主」をあてはめてしまうと、文章の中でいちいち「君主は」と出てくることになってしまってなんか堅苦しいし、Princeという響きに含まれる可愛らしさが消えてしまう。「公爵」や「大公」としたとしても同様だろう。
ここは、登場人物としてのPrinceはまんまプランス(プリンス)と書き、当該箇所だけ「それだけじゃ、僕は立派な君主になれない……」と書いて「君主」に「プランス」というルビをふる方がましか。
ルビ文化万歳!
だから、タイトルはまんま、
小さなプランス
の方が素直なのかもしれない。
プランスとプリンスでは、プリンスの方が通りがいいだろうけど、あえてプランスを押し通す、っていうのもありかな?
でも、ここまで来てしまうと、だったら、
プチプランス
プチ・プランス
ル・プチ・プランス
とかじゃダメなの?
という話にもなってくるだろうなぁ……。
カタカナタイトルも今ならありだろう。『指輪物語』じゃなくて『ロード・オブ・ザ・リング』がありなように……。
こうなると「単語間に中黒を入れるか否か」、「冠詞はどうする?」みたいな話を詰めなければならなくなってしまうだろう。
単語数が少ないのだから「小さな君主」、「小さなプランス」、「ル・プチ・プランス」あたりが自分の中では真面目でかつ妥当な解答であり、正確な訳にこだわる限り、もうこれ以上良い答えは考え付かない気がする……。
じゃあ、先に結論は出たということにしておくとして、もう少し続けてみよう……。
以下は、余談として認識してほしい。
「星の王子さま」のように内容からの意訳みたいな真似もできなくはないけど、ここはやはり、正確な訳というコンセプトにこだわりつつ、遊ぶとして……。
『The Story of Little Black Sambo』(小さくて色黒なサンボの話)のメジャな邦題が「ちびくろサンボの物語」だから、
ちび王子
ちび君主
ちびプランス
……っていうのもありか?
あんまり可愛くない。「ちび」という言葉にはどうもコミカルなニュアンスが含まれてしまうな。
『おそ松くん』のせいか?
じゃあ、「Petit」をそのまま活かして
プチ王子
……なんか、女子高生やOLには一時的に人気が出そうだけどな。それっきりな気がする。
英題が「The Little Prince」なので「Little」にこだわってみるか、その方が日本人にはわかりやすいだろうな、と考えて、ふとタイトルを思いついた。
小学館の学年誌やコロコロコミックで、少年まんが版を掲載するようなことがあれば、是非、このタイトルにしてもらいたいようなタイトルを──
リトル君主くん
うーむ。熱血だ。
作画はやっぱり、内山まもるで……。