容疑者 室井慎次
一人の男が何かを貫き通す物語。
──そう言いきってしまうのは簡単だが、いささか乱暴である気もする。
この映画で交錯する思惑はそれほどまでに多い。
(共同正犯)
第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
(特別公務員暴行陵虐)
第百九十五条 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、七年以下の懲役又は禁錮に処する。
2 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする。
※)また観てから感想をアップするまでにしばらく間が空いてしまったが、ご容赦願いたい。
却説──。
この映画には二つの顔がある。
一つは人気TVドラマ『踊る大捜査線』のスピンオフ作品としての面、もう一つは日本映画としての面。
どっちを欠いてしまっても、この映画を説明することは困難になってしまうだろう。
以前、提供される遊び場というエントリィで、提供側は「壊すことでしか先へ進めないこともある」と書いたのだが、この映画はまさにその典型。
そもそも『踊る大捜査線』は、長年、和久巡査長が追っていた事件が収束するとともに、最終的に青島巡査部長が交番勤務となることで幕を閉じる。
そう、『踊る』は幕を閉じたのだ。
本来ならば、あのままそれぞれの生活は続き、同じ志を胸に秘めつつ、登場人物たちはそれぞれの人生を歩んだことだろう。
しかし、続編は製作されてしまった。室井警視の手によって青島は湾岸署に再配属され、定年退職して警察学校に務めていた和久も指導員として引き戻されてしまう。
あきれるほど見事な原状復帰。ファンは諸手を挙げて喜んだだろうが、よくよく考えてみればTVドラマの最終回は台無しになってしまっている。これもひとつの壊し方だ。
そのまま続けばシリーズは袋小路にハマっていただろうが、さすがヒットメーカ。今度は別の壊し方を提示してくれた。それが今回のスピンオフだろう。
クラッシャは、シリーズの脚本を担当してきた君塚良一。しかも、今回は自らメガホンを持つ、という気合いの入りようだ。
今回、村上航氏が出演しているというだけの理由で劇場に脚を運んだため、監督は誰かなどという情報を事前に仕入れていなかったのだが、いい意味で裏切られた。
この映画を観ていて全編に一貫して感じたのは、君塚氏本人による「踊る否定」の空気──それが今作品に生命を吹き込んでいたように思う。
だからといって親作品である『踊る大捜査線』の魅力が半減するかといえば、そうではない。ただ、親作品を否定することで見えてくるものがある、というだけの話だ。
同じく君塚氏が脚本を書いた『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は、最後の最後で薄っぺらな物語になってしまったと個人的には思っていたのだが、その主な理由に、真矢みき演じる沖田管理官がかなり薄っぺらなキャラクタとして描かれてしまったということと、最終的に現場を動かした室井のあまりにアバウトな決め台詞とがあげられる。
この二点に関して、今作品で可能な限りフォローを入れているのも嬉しかった。
壊すことがフォローになることもあるのだ。
個人的な見所としては、新宿という街。実はオープンセットを使用していて、いわき市の工場跡で撮影されたというのだから驚きだ。
あと、田中麗奈は可愛かった。『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』では全然魅力が活かされてなかったんだなぁ、と今更のように思ってみたり。
物語自体は単純な話だ。解決もいたってあっさり。
複雑に見える部分があるとしたら、多くの人間の思惑が絡んでいるということだろうか。
そういう意味でも、前述した真矢みきに焦点を当てられていたのは嬉しかった。柳葉敏郎、筧利夫、真矢みきという三人の警視正のそれぞれの動きが絡み合う様が、ストーリィ上でもっとも注目すべき点だったように思う。
だからこそ、木内晶子演ずる桜井杏子にはもっと翻弄されてほしかった。何が起こっているかさっぱりわからないのに、周囲が騒ぎ立て大事件になっている、みたいな。
結局、この辺りや八嶋智人扮する灰島弁護士あたりが最終的には薄っぺらくされてしまうのは、大衆性を考えてのことだと思うが、他が良かったと思うだけに残念無念。
全編、『踊る』本編とは違い、日本映画的な絵作りをしているのも割と好感(本編の『パトレイバー』っぽいところも好きだけどね)。
といいつつ、地味かといえばそうではなく、灰島法律事務所のシーンなどは、完全に絵的なもの優先の配置で微笑ましかった。
最後に室井慎次が別天地へ向かうわけだが、それは新たな物語への伏線と考えてもいいのだろうか?
あっち行ったりこっち行ったり、忙しい人である。
『容疑者 室井慎次』("THE SUSPECT●MUROI SHINJI" 2005)
監督・脚本:君塚良一
製作:亀山千広
プロデューサ:金井卓也/臼井裕詞/堀部徹(ROBOT)/安東親広(ROBOT)
音楽:松本晃彦
出演:柳葉敏郎/田中麗奈/哀川翔/八嶋智人/吹越満/津嘉山正種/升毅/中原丈雄/松永玲子/田辺謙一郎/佐藤恒治/水谷あつし/村上航/長坂周/野口間徹/海老原敬介/須永祐介/大杉漣/佐野史郎/大和田伸也/小木茂光/寺尾憲/木内晶子/山崎樹範/モロ師岡/河西健司/矢島健一/並樹史朗/大河内浩/浜田晃/高橋昌也/品川徹/田中圭/伊達暁/田仲洋子/野元学二/しのへけい子/矢嶋俊作/武田まる美/山浦栄/柄本明/長棟嘉道/高橋睦美/戸辺俊介/戸谷昌弘/積圭祐/研丘光男/金と銀/志水正義/高橋克弥/国枝量平/津村和幸/鳴海剛/碧木菜々/高木裕喜/隈部洋平/武井秀哲/浜幸一郎/平尾仁/佐藤力/Maria Susana/金蓮花/有働正文/Sengnet Chuthaluck/山崎進哉/田村三郎/加門良/青木鉄仁/濱本暢博/木村木/佐藤史吉/大槻博之/パラ小林/羽田眞理/綾瀬ゆう/長谷川まりな/周太/朴慶完/じんぐうまえせい子/愛順/王健軍/MAHMUD RIPON/媛媛/矢内環/ABEDIN/ルーシー/アントニオ フェレイラ/植村喜八郎/石井淳/牧村泉三郎/井川哲也/藤川俊祐/藤村大樹/福田裕也/浜田道彦/稲次将人/松本匡親/黒部弘康/恩田隆一/冨塚智/田中陽悦/松本良/木川淳一/伊東丈典/秋元英明/上戸明/河西祐樹/小山紘徳/白木隆史/俵広樹/角田明彦/徳永繁治/永井裕久/林真也/保科光志/山科秀勝/井鍋信治/新家子一弘/河瀬友作/工藤博/中山広文/吉本信也/丸岡仁士/西本篤志/尾崎雅彦/松本航平/芦原由幸/林将宏/坂本哲郎/渡部雅彦/片野正夫/松上順也/高野弘樹/友松タケホ/六八茂/中山治哉/高橋治平/豊見山明長/斉藤暁/小野武彦/北村総一朗/真矢みき/筧利夫
⇒THE ODORU LEGEND 《参照》 灰島法律事務所(塒のこっちがわ) 容疑者 室井慎次(PHOTOSHIP) 容疑者 室井慎次(映画生活)
⇒THE ODORU LEGEND 《参照》 灰島法律事務所(塒のこっちがわ) 容疑者 室井慎次(PHOTOSHIP) 容疑者 室井慎次(映画生活)