髑髏城の七人2011

七年の時を経て生まれ変わる物語が、またやってきた。

最初の出会いは'97年の池袋サンシャイン劇場。それから7年後のアカドクロアオドクロの際はちょうど金欠&多忙かつプライベートでも大変だった時期だったので、後にゲキ×シネで鑑賞(ゲキ×シネというシステムに感謝)。

それからも、何度かいのうえ歌舞伎を生で観たり、ゲキ×シネで観たりしていたのだが、ついに2011年、『髑髏城の七人』が帰ってきた。

満を持してチケットを取り、先日、青山劇場にて鑑賞させてもらった新たな髑髏城は、相変わらず凄かった。

残念なことに、取れた座席が二階席のB列中央だったため、役者の表情などはわからなかった(その辺はゲキ×シネを楽しみに待つことにしよう)が、全体を俯瞰して観ることができた。

全体的に若くなった役者の面々はそれぞれの実力の中で頑張っていたし、特に早乙女太一の流れるような殺陣は見事で、思わず見入ってしまったほどだ。

今回、同行してくれた『髑髏城の七人』が初見の連れはとても満足していたので、良い芝居だったのだろう。

では、自分にとってはどうだったのか……。

観劇から数日、ずっと考えてきたのだが、今回の公演を観て、「自分にとって『髑髏城の七人』とは何なのだろう?」と考えるいい契機になった、というのが暫定的な解答だろうか?

自分にとっての髑髏城とは、まず「捨之介と沙霧の物語」だった。

旅の始まりは沙霧と捨之介の出会い。そして道中を共にすることになった二人が、立ち寄った色街で事件に巻き込まれる。そんな物語。

そしてもうひとつは、バックボーン。

これは、「二人の影武者の因縁の物語」だ。

主君を失い道を断たれ、一度は別々の道を歩んでいた二人の影武者が、再び相まみえる。

自分の中で、このふたつの要素が、『髑髏城の七人』を『髑髏城の七人』として認識している根っこの部分だったと断言してしまって差し支えない。

しかし、今回の『髑髏城の七人』は筋立てこそは同じだが、そのどちらでもなかった。

今回の「ワカドクロ」と呼ばれている新しい髑髏城は、とっかかりの段階から、捨之介を小栗旬、天魔王を森山未來という配役でやるということを前提に再構成された企画だったらしい。

一人二役だった捨之介と天魔王を別々の役者が演じる、ということは、二人は違う顔だということだ(もちろん、舞台であれば顔が違っても「設定上、似た顔である」ということにすることも可能なのだが、敢えてその選択はしなかったようだ)。

従って、同じ人物の影武者二人という設定は消え、それによって組み上げられていた細部の展開や台詞の端々が変更になってしまった。

物語だけじゃない、大きく変更を余儀なくされたのは、小劇場芝居としてのギミックだろう。

映像作品なら比較的簡単に表現できる一人二役という要素を、舞台上でどう表現するか。それが『髑髏城の七人』という芝居の大きな仕掛けだったはずである。実際、天魔王が仮面をつけると声が変わるというのも、そこに起因したギミックだし、実際、二役は見事だった。

が、今回は最初から二役として企画がスタートしているので、残念だが、これは最初からないものとして考えなければならない。

その余波として、物語面でもいろいろと変更が余儀なくされている。

あくまでも影武者であり、天にはなりきれない天魔王の悲哀などといった部分は完全にオミットされてしまった。その代わり、捨之介や天魔王には新たな過去や新たな心情が与えられ、各パートごとの展開や各々の役者の役作りとしては破綻がないように見える。

しかし、基本的な大枠の筋立て自体が、設定とかなり密接に融合していたためか、あちこち無理があるように思えた。展開が先にあって、そこに無理やり登場人物の心情をはめ込んでる、みたいな。

中でも最も割を食ってしまったのは沙霧だ。

沙霧は本来、ヒロインであり、もうひとりの主人公的な立場のキャラクタであった。

が、捨之介が「主君を失った影武者」ではなくなってしまったことによって、沙霧の「影武者に助けられた本物」という設定と対をなさなくなってしまったのだ。

結果、沙霧と捨之介の関係は希薄にせざるを得なく、「冒頭で沙霧を助ける」という展開がなくなってしまった。

髑髏城における作中の期間は、実は極めて短い。

だから、物語が沙霧救出から始まらないということは、捨之介と沙霧の関係がかなりあっさりしたものになるということだ。

結果として沙霧はヒロインではなく、単なる七人のうちの一人、という扱いになってしまったように感じられた。

追手から沙霧を救出するエピソードは旧版ではかなり大事で、ここで「捨之介と沙霧の旅の始まり」と表現することで、作品全体が「二人の道中記」の内容だと観客に印象付けられる。二人の関係は、言ってみれば百鬼丸どろろ(もしくは、アリオンセネカ)のようなものなのだ。

作中では、捨之介と沙霧(そして二郎衛門)が実際に無界の里に辿り着くまでの時間経過が描かれていないため、道中に独立したエピソードをいくつも挿み込むことが、実は可能だったりする。

で、最終的に行き着く先が無界の里であり、髑髏城だと受けとめることも可能だというわけだ。

だが、今回のバージョンでは捨之介と沙霧の関係をあえて薄くしている。沙霧は先に身分を隠して無界の里に流れ着いている、という設定だ。

沙霧を色街に送り届ける必要がなくなったので、捨之介も玉ころがしである必要はないし、女好きである必要もない。

そのせいで、「女衒」と「色街の主」が知り合いでもおかしくはない、という捨之介と蘭兵衛の関係のミスリードまでもがなくなってしまったわけだが。

ただ、沙霧と捨之介の関係が希薄になってしまったせいで、何故、後半、沙霧が捨之介にこだわるのかがよくわからなくなってくるし、最終的に沙霧が捨之介を追う意味も弱くなっていて、エンディングが不自然に感じられてしまった。

零落したのは沙霧だけではない。

今回は、色街「無界の里」そのものも零落したと言っていい。

旧版の無界の里は、ネタの中でギャグとしてするっと流してしまってはいたが、「女たちが春を売らない色街」という設定だった。

が、今回の無界の里は、リアル重視の結果か、システムこそ多少特殊ではあるが、普通の色街になってしまっており、神秘性が薄れてしまっている。

お陰で、京大阪にまで流れていた評判も、今作では箱根を越えたあたりに落ち着いている。

無界の里は、「無何有の郷」ではなくなってしまったのだ。『吉原御免状』でさんざん色街を演出したからもういいのかもしれないが、艶やかな印象を振りまいていた無界の里が普通の色街になってしまったことは、非常に残念だった。

また、蘭兵衛の登場が遅いせいか、蘭兵衛と里との関係も希薄に見え、その後の蘭兵衛の裏切りが映えない気がした。

そんなわけで、捨之介が元影武者である、という設定の消去は、芋づる式にいろんな部分に影響を及ぼしていて、沙霧がヒロインでなくなったのと同様、捨之介自身も主人公というよりは七人のうちの一人、というウエイトの方が高くなり、狙ったのかどうかは不明だが、ワカドクロは全体的に「群像劇」的側面の性格が濃くなってしまっている。

より『髑髏城の七人』というタイトルに近づいたと受け止めることも可能だが、自分にとっては『髑髏城の七人』の「定義」にあてはまらない、筋立てだけが同じ別の物語、と認識せざるを得なくなってしまった。

それでも「七人って誰?」という脚本部分でのギミックは活きているし、磯平と荒武者隊の和解など、泣けるシーンも多かった。三五の裏切りも、相変わらず素敵だ。

それ以外も物語として成立しているなら良かったのだが、やはり、構造上必要な支柱を引っこ抜き、それを補うように吶喊で補修工事をしている感が拭えなく、いろんな部分で無理があるように見えてしまった。

影武者設定が取れたことで人の男、地の男の立ち位置と蘭丸との差が無くなり並列になった割に、蘭丸は蘭丸、他は名無しという統一感のなさが気になるし、捨之介を天魔王に仕立て上げようとする一連の流れはどうにも違和感を拭えなかったし、あそこで斬鎧剣を使うのもどうかと思うし、最後の家康とのやりとりも微妙に腑に落ちない(実はアカアオドクロで追加された沙霧の「最後のぺてん」も蛇足だと思っているんだけど)。

だから、個人的には「いただけなかった」のだろう。

しかし、初見の同行者は満足していたようだし、あちこち感想も観て回ったが、今回、髑髏城を初めて観たという人には全般的に好評価のようだ。

つまり、興行としては間違っていないのかもしれない。

ただ、「小劇場芝居の発展形を大舞台で」という挑戦が感じられた旧髑髏城に比べて、今回のバージョンは、単に「かっこいい普通の商業演劇」に見えた気がして、少々、淋しかったのは事実だ。

そういう意味では劇団☆新感線そのものが、すでに老成してしまったのかも知れない。

それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。

ただ、『髑髏城の七人』と名のつく演目に関しては、捨之介と沙霧の物語であって欲しいし、二人の影武者の物語であって欲しいと思うのだ。

それがわかっただけでも、今回の観劇は収穫だったのかも知れない。

ゲキ×シネ版を見れば感想も変わるかも知れないが、現時点の感想として、ここに楔を打っておこうと思う。

劇団☆新感線2011年夏興行

いのうえ歌舞伎『髑髏城の七人』

作:中島かずき

演出:いのうえひでのり

出演:小栗旬森山未來仲里依紗早乙女太一小池栄子/高田聖子/勝池涼/河野まさと/仲圭太/橋爪遼/三浦力/岩崎祐也/友部康志/右近健一/川原正嗣/前田悟/山本カナコ/保坂エマ/粟根まこと/川島弘之/武田浩二/藤家剛/井上象策/安田桃太郎/加藤学/伊藤教人/菊池雄人/逆木圭一郎/村木仁/村木よし子/中谷さとみ/浜田麻希平田小百合/松永晃幸/八木のぞみ/インディ高橋/磯野慎吾/千葉哲也 + 吉田メタル(怪我により途中降板)

企画製作:劇団☆新感線・ヴィレッヂ

梅田芸術劇場メインホール:2011年8月7日〜24日

青山劇場:2011年9月5日〜10月10日

観劇:青山劇場・9月22日18時・2階B列24番

いのうえ歌舞伎『髑髏城の七人』公式サイト

公式ブログ「ドクロブログ」