クシー・キッチン
誰の心の中にも少女が住んでいます。
本当は年齢も性別も関係ないので「少女」と表現するのはおかしいかもしれませんが、そう表現したほうがしっくりくると思うので、あえてそれを「少女」と表現します。
少女は、狭い部屋に閉じ込められています。
八方向にドアがある狭い部屋です。
どの扉も鍵がかけられていて、少女の力では開けることができません。
少女は、気がついたらその部屋にいました。
どこから入ってきたかもわかりません。
どれかひとつの扉から入ってきたとしても、その扉は少女のいる部屋の側からはあきません。
少女にできることはひとつだけ。
泣くことではありません。
途方に暮れることだけなのです。
そんなとき、彼は突然やってきます。
どこからともなく現れます。
上から来たのかもしれません。
少女がそう思って天井を見上げても、天井ははるか上のほうにあって、とてもよじ登れそうもないのです。
彼は少女に問い掛けます。
「何をしてるの?」
少女は答えます。
「閉じ込められてしまったの」
彼は首を傾げます。
「閉じ込められているの? どこに?」
彼は少女の言うことが理解できないようです。
「この部屋に閉じ込められているの」
「そんなことないと思うけど」
「だって、どの扉からも出られないんだもの……」
彼は肩をすくめると、扉でも何でもないところを、思い切り殴ります。
壁には大きな穴。
穴の向こうには、大きな野っ原が広がっています。
彼は少女に向かって振り返り、
「ほら、別に閉じ込められてなんかないだろ?」
と言って、ニカっとわらいます。
そして、彼は少女に手を差し伸べるのです。
「さあ、こんなところ、さっさと出よう」と。
その笑顔を見た途端、少女は泣き崩れてしまうのです。