野獣郎見参2001

男は殺す。女は犯す。

金に汚く、己に甘く、傍若無人の物怪野獣郎……。

この物語の主人公であるらしい堤真一扮する物怪野獣郎なる人物は、そんな前口上で現れる。

よっぽどの汚いやり口の男なんだろう、と否が応にも期待してしまうのだが、それは間違いだったと後々気付くこととなる。

『野獣郎見参〜Beast is RED』は2001年に再演された劇団☆新感線のいのうえ歌舞伎(正確に言えば、この再演版は新感線の本公演ではない、はず。東宝のプロデュース公演だったかと)。

初演は96年(初演版の野獣郎役は、当時劇団員だった橋本さとし。初演版は「いのうえ歌舞伎」ではなかったと思うのだが……)。

先日、BS2の『ミッドナイトステージ館〜深夜劇場へようこそ』で放映されたのを知人に録画しておいて貰ったのだが、『吉原御免状』の前哨戦(?)として鑑賞させてもらった。

『吉原御免状』と感想が前後してしまったことに関してはご容赦を。

2001年ということは、『阿修羅城の瞳』(00年)よりもあとの公演ということになるのだが、それにしては、あまり洗練されてない感が漂う芝居だった。

時は安倍晴明の死後250年、応仁の乱の頃──あれ?

安倍晴明の没年って11世紀じゃなかった?

250年経っても15世紀にはならないと思うんだけど……。

作中で250年と言っていたのは、作中の「現代」という意味ではなかったのか、あるいは安倍晴明が実は13世紀までは生きていた、という設定なのか。

いまいち判断に苦しむ。

『ジーザス・クライスト=スーパースター』のパロディも『SHIROH』を観た後では、苦笑するしかないよね。

この作品の支柱となるのは、高橋由美子の演じる半妖・美泥と、その想い人である古田新太演じる魔事師・芥蛮嶽との関係だ。

晴明蟲にしても、道満王にしても、涙丸にしても、美泥と縁深い魔物たちにしてみても、そして最後の晴明王と野獣郎との一騎討ちにしても、結局は美泥と蛮嶽の関係を語るための道具でしかない。

しかし主人公、即ち視点となるのは、野獣郎である。だから、一瞬、ちょっとした違和感が観客を襲う。

どういうことかと悩んでいたが、ふと思い至った。

これは野獣郎を主人公とした百篇からなる壮大なサーガの、ほんの一話にすぎない。

野獣郎⇒シリーズの主人公

美泥⇒この話の主人公(ゲストヒロイン)

そう考えるのが一番しっくりくるのではないだろうか?

……少なくとも、個人的にはしっくり来た。なので、美泥や蛮嶽の出ない別の野獣郎の話を、いつかはやって欲しいなと思った。

そうでも思わなければ、頭でこなれないほど、この話は野獣郎に対して淡白だ。

あっさり芝居。

あと、野獣郎の性格設定も気になった。

馬鹿だという設定も悪くないのだが、野獣郎の馬鹿さ加減を堤真一の爽やかさが相殺してしまっているように感じたのだ。

そう。爽やかさんなのだよ。

『姑獲鳥の夏』でもそうだったけどね。

前口上が印象的でキャッチィなだけに、どうにも残念だ。

観たことはないが、橋本さとしが野獣郎を演じていた初演版なら、「男は殺す、女は犯す」をたとえ作中で実行していなくても「実はやってそう」と思えたかも知れない。

でも、なんか堤真一が言うと、「言ってるだけで本当はそんなことはしてない」クリーンな野獣郎に見えてしまうんだよねぇ……。

そんなところに『吉原御免状』の堤氏はえらい良かったと言える所以がある。

必見。

吉原御免状』の誠さま素敵。

今からでも遅くはない、行こうか迷っている人は、なんとしてもチケットを手に入れて欲しい。

……あれ? 『野獣郎』の感想じゃなくなってる?

まあ、今日のところはこんな感じで。

追記:

そうそう、作中に出てくる妖の者どもは、それぞれ鬼の名を持っているが、あくまで「妖怪」だとしていたのは『阿修羅城の瞳』を意識してのことなのだろうか?

ちょっと気になった。

INOUE KABUKI

『野獣郎見参〜Beast is RED』

脚本:中島かずき

演出:いのうえひでのり

出演:堤真一高橋由美子古田新太手塚とおる/大沢さやか/橋本じゅん粟根まこと河野まさと/こぐれ修/逆木圭一郎/右近健一/村木よし子/山本カナコ/吉田メタル/インディ高橋/磯野慎吾/村木仁/タイソン大屋/川原正嗣/前田悟/武田浩二/佐治康志/藤家剛/前川貴紀/三住敦洋/奥園日微貴/赤峰宏枝/CHIZUKO/栗原妃美/毛塚史子/菅原和歌子/武田みゆき/前田美波里/松井誠

映像STAFF

プロデューサ:新井達己/柴原智子

撮影・技術:SUPER BOMB/K5

2001年当時の公式サイトのログ

http://www.yajyuro.com