仮面ライダーGを考える
先日、『SmaSTATION!! presents SMAPがんばりますっ!!』内の企画として稲垣吾郎が仮面ライダーに挑戦するという『仮面ライダーG』が放送された。
バラエティ番組のパロディヒーローとは比べ物にならないくらいのCG(多分、各ライダーシリーズの第一話以上に予算とか気合いの入ってる)に驚いたりもしたのだが、昭和的エッセンスに溢れる作品だったことに何より驚いた。
『仮面ライダーG』は、稲垣のワインにちなんだキャラ付けなど、パロディ的な要素も多かったし、一回こっきり(?)の企画ゆえに強引なストーリィ展開も目立ったのだが、それより何より、全編を通して流れる昭和ライダーテイストに思わず唸ってしまった。
多分、昨今の平成仮面ライダーを観ておらず、ライダーは子供の頃に観てた、という人が『仮面ライダーG』を観ててもスルーしてしまう部分だろう。
『仮面ライダーG』のベースストーリィはこうだ。
政府は、対テロ組織として「シェイド」を創設、それなりの成果をあげる。しかし、「シェイド」が非人道的な洗脳・人体改造実験をやっていたことが発覚し、組織は解体され、創始者も逮捕される。
解体されたはずのシェイドだが、その構成員たちがテレビ局を制圧。テレビ局にいた200人の人間たちを人質に、シェイド創設者を解放することを要求してきた。
ワインのソムリエだった吾郎も、シェイドに拉致され、洗脳と人体改造を受けてシェイドの構成員「No.5」となっていた。「No.5」は犯行声明とシェイドの要求を告知するため、生放送で全国に素顔をさらすが、テレビ局に居合わせたかつての恋人と彼女の持ってきていたワインで記憶を取り戻す。
記憶を取り戻した吾郎は、愛のためシェイドと戦うことを決意するが……。
まず、主人公を含め悪の組織のメンバたちは、拉致されて人体を改造された上に、今までの生活の記憶を抹消、洗脳されている。
平成ライダーで極力避けてきた「改造人間」というモティーフが選ばれているのだ。
平成ライダーと呼ばれる最近のライダーは、ライダーというよりはメタルヒーローに近く、高性能な外部装甲により変身したり、太古のオカルティックな力や修行などで変身できるようになったり、というケースが多い(あるいはその複合)。
人体を改造したり洗脳したりってのが、子供向けではない、というのが最近の判断なのだろう。
昔の『仮面ライダー』はシビアな作品だったのだ。
さらに、この作品の「シェイド」は武装テロ集団だ。
火器をもった武装集団がテレビ局を制圧するシーンを見るまでもなく、立派な犯罪者の集まりなのだ。
昨今の仮面ライダーは昔とは違い、「悪の秘密結社」という犯罪者的なフレーバは避けられてきた。
敵は、人間とは別種の存在だったり、神のごとき力を持った存在の下僕だったり、人間を捕食する怪物だったり、妖怪のようなものだったりと、人間ではない怪物であるケースが多かったのだ。だから、警察が出動するシーンがあったりもするが、どちらかといえば害獣駆除に近いものだった。
人間から進化して異形になった集団が、とある企業を根城にしているケースもあったが、悪の秘密結社とは言えないだろう。
子供の頃は考えもしなかったが、ショッカーに代表される悪の秘密結社は、武装テロ集団なのだ。
その辺りが『仮面ライダーG』では強調して表現されていた。
偶然、記憶を取り戻した吾郎はともかく、吾郎と戦う羽目になった怪人たちはいずれも拉致されて洗脳・改造された人間……つまりは被害者だとも言える。
そういえば、昔、よく特撮番組で幼稚園の送迎バスがハイジャックされることがあった(今もあるのかな?)。
ショッカーはそんなことはしてないと思うのだが、まあ、いろんな作品で幼稚園のバスは乗っ取られていたように思う。
当時、ターゲットである子供には効果的な描写だとは思うが、世界征服をもくろむ組織が幼稚園のバスを乗っ取るなんてみみっちい、なんて批評がまかりとおっていたような気がするが、よく考えてみよう。
もし、犯罪者の集団が子供や若い女性の先生(あるいは保育士)ばかりを人質にバスに立てこもったとしたら……。
大人ばかりの乗った高速バスがハイジャックされた時よりも、「非人道的」として犯人グループは糾弾されるのではないだろうか?
そういう意味では、非道な犯罪テロ組織と、組織を抜け出したヒーローとの戦いという、今の仮面ライダーが放棄してしまった描写(ハリウッド映画にはありそうだけどね)を『G』がしていたのには、感心した。
まあ一種のパロディ作なので、『G』にこれ以上を望むわけではないし続編も希望しないが、その辺りのディテールを深めた作品を作る価値はあるなぁ、と観ていて思った次第。
ちなみにGはベルトのバックルにワインボトルを差し込むことで変身する。
所持する武器もワインオープナだ。
必殺技も555のフォトンブラッドのようにバックルのワインボトルから出たエネルギィが全身を巡ることで発動する。
知人は、「全身をワインが巡るってのは酔っ払ってるって描写?」と言っていたが、僕が思うにGは、フォトンブラッドの代わりにワインを巡らせることによって、「ワインが血液」と言っていた川島なお美と同等のパワーを得るのだと思う。
川島なお美のパワーは未知数だが、『お笑いマンガ道場』的にゼイラムと戦っていた頃の森山ゆうこと同等かそれ以上のパワーを秘めているであろうことは想像に難くない。
……なんて言ってみたり。
『仮面ライダーG』
監督:田村直己
脚本:米村正二
出演:稲垣吾郎/釈由美子/上地雄輔/村上幸平/唐橋充/松田賢二/大下容子/横山一敏/高橋光/中島芙美枝/幸城まなみ/永徳/藤田慧/哀川翔
スーツアクト:渡辺淳/岡元次郎/村岡弘之/金田進一/伊藤教人/高田将司/高岩成二
声の出演:井上正大/村井良大
ナレーション:永井一郎
プロデュース:梶淳/大江達樹/白倉伸一郎/武部直美/和佐野健一
原作:石ノ森章太郎