阿修羅城の瞳2000
劇場版『阿修羅城の瞳』を観たことがきっかけで、2003年版のDVD映像を改めて見直し、映画のノベライズ版、まんが版などを読んだわけだが、2000年版の映像だけは未見だった。
こりゃ『阿修羅城の瞳』を読み解くためには何としても2000年版のDVDも見ておきたい、と思いイーオシバイドットコムを覗いてみるも「売り切れ」。
ヤフオクあたりでVHS版を手に入れるという手もあったが、今更、VHS版を買ってもなぁ……などと思っていたところに朗報。
ごくごく近しい人が2000年版『阿修羅城の瞳』のVHS版を所持していることが判明したのだ。
しかも、その人物は劇団☆新感線のファンでも何でもなく、ただビデオを人から貰っただけということで、未見だということだった。
ぎゃーす、持ち腐れ発見!
というわけで、早速、借りてみることにしてみた次第。
本来なら2000年版を観てから2003年版を観て、どこがどう改良されたのか、などを知るべきだったのだろうが、見る順番が逆になってしまったので、見方的に「ああ、なるほど。ここを2003年で改良したわけだ」という風に思ってしまう邪念が、多少、邪魔だったかも知れない。
でも、比較的、ニュートラルな気分で観られたように思う。
とはいうものの『髑髏城の七人』ほど、基本的な演出方針が変わっているというわけではない(小屋も一緒ですし)。
基本ラインは同じで細部が違う、という感じなので、2003年版を見慣れている人が初めて観れば、違和感を感じてしまうかも知れない。
以下、2003年版との違いをあえて意識しながら記述。
2000年版の特徴としてあげられるのは、脇役がしっかりしていること。
2003年版を観てから映画版を観たので、映画で桜姫や祓刀斎といった脇がカットされてしまうのもいたしかたなし、と思っていたのだが、2000年版を観たら、両者ともに幹に食い込んだキャラクタに見えた。
また、2003年版では「背景」になりさがっていた孫太郎やTakiという存在が、2000年版ではちゃんと「脇役」として機能していた、というのも興味深い。
そういう意味では2000年版は拡散している、のかもしれない。
この台詞は2003年版ではカットされていたなぁ、と思ったところは、たいてい説明台詞だった気もするし。
2000年版の最大の特徴──というか2000年版と2003年版との最大の違い──は、闇のつばきこと阿修羅、だろう。
天海祐希が演じていた阿修羅は迫力があり、まさしく鬼女だった。
しかし、富田靖子の演じる阿修羅は、ふわふわとつかみどころのない感じの役作りだった。
最初は何だろう、と思っていたのだが、やがて「ああ、これは幽霊なんだ」と思うに至った。
『阿修羅城の瞳』自体が『東海道四谷怪談』へのリスペクト作品なのだ。途中途中の演出を考えれば、つばきを、阿修羅を、お岩のごとき亡霊として演出したというのも頷ける。
つまり、本来の意味での「鬼」というわけだ。
そう考えたら、ラストの桜の上で赤子を抱くつばきの印象がガラリと変わった。
こうなると1987年の初演版に出てきた白石恭子演じる阿修羅はどんな感じだったのだろうと、気になってしまう。
観る機会はおそらく訪れないだろうが、記憶の隅に留めておくことにしよう。
ともあれ興味深い鑑賞となった。
キャストや演出をかえての再演って、ついついスルーしてしまうことが多いのだが、戯曲の本質を知るためにはさまざまなアプローチがあって然るべし、といったところだろうか。
♪鉄砲 愛は鉄砲 これが結構 よく当たるのよ……
Inouekabuki Shouchiku-mix
『阿修羅城の瞳 BLOOD GETS IN YOUR EYES』(2000)
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:市川染五郎/富田靖子/古田新太/渡辺いっけい/森奈みはる/橋本じゅん/粟根まこと/インディ高橋/河野まさと/吉田メタル/礒野慎吾/新谷真弓/Taki/川原正嗣/前田悟/大林勝/村木よし子/山本カナコ/杉本恵美/中谷さとみ/村木仁/船橋祐司/武田浩二/佐治康志/藤家剛/フランキー仲村/松本高弥/北原美智子/篠田紀子/下田智美/白倉由美子/中里安也美/中間千草/加納幸和/江波杏子/平田満
映像STAFF
プロデューサ:新井達巳/柴原智子
制作:林瑞樹
製作・著作:YOROZUYA/ヴィレッジ
追記:2000年版は安倍邪空役が古田新太。アカドクロとアオドクロを観た人には、市川染五郎と古田新太の直接対決に燃えるかもしれません。