阿修羅城の瞳
動員1000人程度の小劇場芝居から、芸能の頂点へ……。
『阿修羅城の瞳』を一言で説明するならそんな感じだろうか。
主演に市川染五郎を迎え、2000年夏、2003年夏と新橋演舞場・大阪松竹座で上演され話題となりまくった『阿修羅城の瞳 BLOOD GETS IN YOUR EYES』も、元を糾せば1987年5月に阪急オレンジルームで上演された劇団☆新感線の小劇場芝居だったというのだから、わかっていても驚きだ。
その『阿修羅城の瞳』が、今度は映画となってスクリーンに登場することとなった。
主役・病葉出門役の市川染五郎はそのままに、富田靖子、天海祐希と演じてきた闇のつばき役に、今度は宮沢りえが挑戦。
初演から数えて18年。
世の中には多くの人の目に付かない良いコンテンツは多数存在するわけで、やはりそういうタカラモノは大事に大事に育んでやるべきだ、というところだろうか……。
却説、その肝心の映画版であるが──
舞台の映画化としてレビューした方が良いのか、単体の映画として評価すべきなのか、少々迷うが、まあ、適当に思ったことをつらつらと書くことでお茶を濁したい。
舞台『阿修羅城の瞳』に関しては2003年版のDVDしか観たことなくて、2000年版は未見である、と参考までに付記しておく。
ちなみに、この作品にはSparksの桑原和生氏が、鬼御門の一員として出演している。いのうえ歌舞伎が好きなこともあって、いろいろな意味で個人的に待ち焦がれていた作品だ。
もちろん、原作付きの映画には、過剰な期待は禁物だ、ということもわきまえている。
元々、途中休憩ありで、3時間超にも及ぶ舞台作品を、2時間でまとめあげなければならない──ということで、枝葉である歌や踊り、ギャグの部分を削ぎ落として、本筋の部分だけで映画として成立させなければならないだろうなぁ、ということは観る前から予想していた。
そういうことになると『阿修羅城の瞳』は、『髑髏城の七人』などに比べると少々不利で、設定的にも筋書き的にも平凡な「SFX時代劇」になってしまわざるを得ない。
事実、その通りで、後半はCGを駆使した単なる特撮時代劇になってしまっていた。
舞台版の熱狂的なファンは、「パワーが無い」と怒るだろうな、ということも視野に入れつつ、まあそこには敢えて着目しない。
『壬生義士伝』の監督だから、地に足の着いた演出を期待していたのだが、滝田洋二郎って『陰陽師』の監督でもあるんだよね……。
いくらCGの技術が発達しようが、予算の限られた日本映画では、そうそうお客の満足いくものにはならないだろう……。
だから、そういう意味ではその辺りは最初から大目に見るつもりで劇場に脚を運んだ次第だ。
作中で、外連、外連と連呼しながらも、外連みに欠けるのはちょいと哀しかったけどね。
映画は、病葉出門と闇のつばきという男女の関係にのみ焦点を絞った構成になっていた。
ただ、いきなりガツンと鬼御門時代の出門という「本題」から始まってしまっていたのが、僕的には非常に不満だった。
僕としては、あれを2時間の映画にするなら(以下、妄想)、阿修羅になってしまったつばきが、出門のやってくるのを阿修羅城の天守閣で、逆しまの穢土を見つめながら待っているシーンを冒頭とし、本筋は日常のつばきたちから始めて欲しかった。
5年より前の記憶を持たないつばきが、漂泊の渡り巫女の仲間たちとともに、芸をしながら各地を転々としている──そんな日常をまず描いてから、出門との出逢いで徐々に変わっていく彼女を描いて欲しかった気がする。
そして出門の方は、徹底的にスーパーマンとして描いて欲しかったように思う。時代劇的には、襲い来る敵たちをチャンチャンバラ、バラバッタバッタとなぎ倒す大活劇、となった方が爽快感のある映画となるのではないか?
そんな風に思った次第(妄想終了)。
冒頭の一風変わった江戸の街並みを表現した松竹のオープンセットは、かなり気合いが入っていて見ごたえ満点だった。
ただ、ややエスニックな雰囲気でまとめられていて残念。
異界としての江戸を表現したかったのだろうけど、文化文政の「粋」で「艶」な雰囲気を出したほうが色気のある作品になったんじゃないかな、と。
そういう意味では、琴平の金丸座でロケをしたという小屋稽古のシーンは、ものすごく説得力があり、良い絵になっていた。
実は、あのシーンだけで、この映画を良作だと言ってしまいたい気持ちもなくはない。
抽象的な表現に逃げられる舞台と違い、映画はディテールをしっかり表現しなければならない。だからこそ、あの一連のシーンこそが映画版阿修羅城の本領発揮といえるような気がした。
舞台を補完するサブテクストとして考えるなら、十分及第点といえる。
G-Rocketsたちが行う渡り巫女の芸も素敵だった。
こういう粋な風俗をもっともっと描いて欲しかったなぁ……。
その他のシーンが全体的に奥行きのない絵に見えたのもちょっとアレかも。
主人公が四代目鶴屋南北の弟子の歌舞伎役者という設定で、その歌舞伎役者役を歌舞伎役者の市川染五郎が演じている(ああ、ややこしい)、というのは舞台版を観た人にはなじみのことかもしれないが、改めて映画作品として見れば結構、新鮮。
「恨みまするぞ」という台詞を「首が飛んでも動いて見せらあ」という台詞で返すなど、あからさまな四谷怪談のパロディ(オマージュ?)もあって、なんだか歌舞伎が観たくなる気も……。
最後の一対一のセックスに見立てた二人の殺陣も健在だ。
それを陳腐と見るか否かは、観客次第だろう。
小劇場から始めて、映画にまでなってしまった『阿修羅城の瞳』。
この先は、どうなるのだろう?
いっそのこと、ホンモノの歌舞伎作品として上演するというのはどうだろうか?
もうそっちへ進むしかないんじゃないか?
そんな無責任なことを考えつつ、劇場をあとにしたのだった。
『阿修羅城の瞳』(2005)
監督:滝田洋二郎
プロデューサ:榎望/森太郎/中村隆彦
音楽:菅野よう子
出演:市川染五郎/宮沢りえ/大倉孝二/皆川猿時/二反田雅澄/桑原和生/山田辰夫/螢雪次朗/樋口可南子/土屋久美子/韓英恵/山中陽子・鵜沢優子・関根あすか・半澤友美(G-Rockets)/沢尻エリカ/夏山剛一/清水一哉/城戸裕次/橋本くるみ/藤田むつみ/大矢敬典/本山力/松本幸太郎/佐藤丈樹/渡部篤郎
原作:中島かずき
《参照》
「阿修羅城の瞳」その2(@やまとBOX)
阿修羅城映画版(塒のこっちがわ)